千鶴の肌は吸い付くほど瑞々しく滑らかく柔らかい。
「全く何度抱いても飽きるどころもっと欲しくなる。
 俺はお前に相当狂ってるみてえだ」
「それは…私もです」
聞こえた声に愛撫を止める。
「貴方が欲しくて…たまりませんから」
腫れた唇と熱を宿す潤んだ瞳ではにかむ千鶴。
「最高の殺し文句じゃねえか」

*






恋の歌が気になる。
桜の季節に胸が躍る。
特別な人が出来た季節だから。
大好きな人と過ごす季節では一番好きかも知れない。
絡めた指さえ嬉しくて一つ一つが大切なもの。
「先生を好きになってよかったです」
ひと時も離れないで寄り添う私達。
優しい瞳にそう告げたら優しいキスが降って来た。
「俺もだよ」

*






「ん?どうした?」
「いえ…」
仕事をするすぐ隣から熱い視線を感じるのだが。
千鶴を見ればすぐ目を逸らしてしまうこと数回。
「何かあるなら言ってみろ」
「…怒らないで下さいね…?」
「ああ」
「…触れたいなと思って…」
その告白はあまりにも可愛すぎた。
「好きなだけ触ればいいさ」
腕の中に閉じ込めた

*






土方先生に連れてきて貰った場所は、
ベランダが海に面している、庭付きの小さなロッジ。
こういうのもいいだろうと先生は言うけれど、
自分でも緊張しているのがわかった。
「千鶴、いい景色だぞ」
純粋に楽しみたいと気持ちは逸り、何も考えずその腕に
抱かれるのもいいかもしれない、そう期待してしまう

*桜雪さんは「庭」と「海」を使って文を作って下さい






長かった冬が終わり桜の咲く頃になるとどうしてもほっとしてしまう。
そして不安にもなるけれどいつも貴方の一言に軽くなる。
「来年も来ような」
「はい!」
そうして抱き寄せられる温もりがたまらなく好き。
だから毎年桜に願うの。
今年の冬も無事に彼と越せますように。
来年も桜を共にに見れますようにと

*






初めて土方さんに抱かれた。
夫婦の契り。祝言あげた。何も変わらない。
でも見えないところで変わっていく。
「まだ実感がありません」
「そのうち湧いて来るさ」
直に触れ合う肌に私の早い鼓動はきっと伝わっている。
一糸纏わぬまま。
気持ちい土方さんの肌に恥じらいを覚える。
「もう俺達は夫婦だ」

*






寂しかった。まだ一緒にいたかった。
わかってはいるのにそう、思ってしまう。
「千鶴?」
呼びかけられて気付いた。
無意識のうちに土方先生のスーツの裾を掴んでた。
慌てて離す。
「すっすいません!」
だけど先生は私の手を掴んで引き寄せる。強く。
「俺ももっと一緒にいてえよ」
その言葉が嬉しかった。

*






「土方さんが傍にいてくれるだけでいいんです」
これまで何もしてやれなかったからと
何かしてほしいことはないかと貴方は聞く。
「だって私が欲しいものは貴方で
 だから土方さんの傍に置いて欲しかったんですから。
 だから今凄く幸せなんですよ?」
少し目元を染めた貴方が微笑んで抱き締めてくれた

*






「待ってなくていいぞ。先に寝てろ」
終わらなかった仕事を家に持ち帰った。
眠そうに欠伸をかみ殺す千鶴は可愛くもあるんだが。
「いやです」
「千鶴」
「だって寂しいんですもん…」
「よし、寝るぞ」
「でも…」
「好きな女にそんなこと言われてほっとけるかよ」
嬉しそうにはにかむ笑顔に集中力は切れている

*






「今夜は帰さねえって言ったろ?」
後ろでに腕を捕まれ抱き締められてた。
やけに声が近く感じる。
「千鶴、帰るなよ」
懇願するようでなのにやけに熱い声が。
「でも…」
「どうせ明日は休みだ。
 友達の家に泊まるって言やいいさ。それとも俺といるのは嫌か?」
ずるい。
本当は一緒にいたいに決まってるのに。

*






「桜の花を目にしたら…」
「なんですか?」
花嵐の風に遮られて聞き取れなかった。
何故か歳三さんは悲しげに見えた。
「いや、なんでもねえ」
その時は曖昧に流された言葉を今こうして思い出している。
貴方がこの世から去る時にくれた言葉を。
『桜の花を目にしたら…俺を思いだせ。俺が傍にいることをな』

*






最後に彼を掴もうとした私の手は消え行く灰の中空を切る。
行かないで――っ!

「千鶴!」
流れ湧いたかつての記憶にまた溺れてしまった。
肩に置かれた土方先生の手の暖もりが頬へと移り涙を拭り私抱き締める。
「わかってます…」
先生の背に手を回しぎゅっと握る。
「でも魂が覚えてるんです」
大切な記憶。

*






「お前は本当に桜がよく似合う」
そう微笑んだ貴方がとても眩く
なのに擽ったくなって真っ直ぐ見てられない。
手折った桜の一房を私の耳元に飾って
嘆息したかと思うとすぐに囁かれた。
「綺麗だ」
どんな風に映っているのか私にはわからないけど私には
そんな歳三さんの方が綺麗に見えた麗かな春の日。

*






俺が起きた時には千鶴の姿がなかった。
代わりに聞こえるの小気味いい炊事の音。
そして食欲を刺激する匂い。
「千鶴?朝早くからどうした?」
「おはようございます。お弁当を作ろうと思いまして」
嬉しそうに千鶴が笑った。
一緒に五稜郭へ桜を見に行く。
「それは楽しみだな」
見てる俺まで嬉しくなる春の朝

*






「なんでもありませんから」
そう微笑んだ矢先に涙が零れる。
「なんでもねえのに泣く女がいるか」
優しく千鶴にいいながら抱き締める。
己れの選択が間違っていたとは思わねえ後悔もしてねえ。
けど自分を想って泣く女に”もしも”を考えちまう。
「そんなすぐには逝かねえよ」
まだ先に一人逝きたくねえんだ

*