「髪下ろすとだいぶ印象変わるよな」
自然とした流れで私の髪を
一房取ると壊れ物を扱うかのように口づける。
その仕草すら私の胸をときめかせた。
「変…ですか?」
「誰もそうは言ってねえだろう。ただ、な。」
そこで言葉を切ると歳三さんは私を抱き締める。
「髪を下ろしたお前はたまらなくそそるんだよ」

*






「泣くな」
そう一言言われるよりただぎゅっと強く掻き抱く
その力と温もりの方が何倍も辛くて安堵できて落ち着くの。
私が眠りに就くまで何も聞かず
何も言わず髪を梳くように撫でる心地よさに身を委ねる。
「千鶴、好きだよ」
低い囁きに私は眠りにつく。
「俺の分まで泣けばいいさ」
貴方温もりに溺れる夜。

*






「大好き」を積み重ねていくことが幸せだと貴方は教えてくれた。
でもそんな貴方は逝ってしまった。
沢山積み上げた「幸せ」だけを置いて。
貴方は幸せでしたか?
幸せに出来ましたか?
そんな問いを問いかけたくなる。
「千鶴がいるだけで俺は十分だ」
最期のその言葉を想って浅葱の空に言う。
「私もです…」

*






電車に揺られて備え付けのカーテンが風に合わせて揺られていた。
その刹那、桜の木と共に見えた白昼夢。
着物姿の私達が仲睦まじく寄り添って笑ってた。
知るはずのない悠久の記憶。
一瞬にでその景色は流れていく。
「今――」
先生に言いかけた言葉は飲みこんだ。
「いえ、なんでもありません」
私だけの秘密

*土千の今日のお題は『カーテン』『列車』『白昼夢』です。






見る景色が違う。そう強く思った。
「綺麗だな」
「はい!」
好きな人と見る満開の桜は今まで見たどの桜より綺麗だった。
散り始めた花弁を手で受け止める。
「千鶴にもついてるぞ」
土方先生が私の髪に触れた。
手はそのまま離れない。
何事かと思えば抱き締められた。強く。
「やっと見に来れたな」
春の贈り物

*






小さく袖を握った手が可愛かった。少し俯いた紅い耳。
もう片手はきゅっと胸の前で握って。
帰りたくないのだと無言のうちに伝える千鶴の仕草が胸を打つ。
俺だって本当帰らせたくねえ。
「なに、すぐに逢えるさ」
抱き寄せて直接囁く。
こんなに愛しい女を誰が手放せるか。
もう少しだけ抱き締めさせてくれ…

*






時々不安になるの――
だって貴方は壊れものを扱うように私に触れるし、
触れてもキスや腕の中だけだから。
「千鶴?」
時々貴方に触れたくて仕方なくなるの私だけですか。
もっと抱き締めて欲しくてキスだけじゃ足りなくて。
「なんでもありません」
先生、もし私がもっと触れたいと口にしたらしてくれますか

*






「千鶴、俺を待ってなくていいんだぞ?眠いんだろう」
欠伸を噛み殺す可愛い千鶴がいてはなかなか仕事にならない。
「だってすぐ無理するじゃないですか…それに…少しでも一緒にいたいですし…」
全く可愛いことを言ってくれる。
集中力はとうに切れた。
手を止め千鶴を抱き寄せる。
「俺の負けだよ、千鶴」

*






「私ずっと土方さんの幸せを願ってたんです」
「俺の?」
「はい」
「自分の幸せは願わなかったのか?」
「貴方が幸せになってくださることが私の幸せでしたから」
穏やかに笑う仕草に心奪われる。
「じゃあ叶ったな。俺は幸せだよ、千鶴いるからな」
今度は嬉しそうに。
「これからも二人一緒に幸せになろう」

*






「俺はお前が笑った顔が一番好きなんだよ。だから笑ってくれ」
貴方はよくそう言っては私の頬に触れた。
目の淵をなぞって涙を拭った。
もう貴方はいない…。
桜が咲き誇る浅葱の空を仰ぐ。
「やっぱり涙は零れてしまいます」
拭う人のいない涙は足元に落ちるけど、
大好きな貴方が大好きだという笑顔を貴方に

*






「ひ、じか、たさぁ…ん」
自分が成した事一つであがる甘い嬌声一つにこんなにも惑い揺さぶれる。
無意識にやってるだけに堪らない。
早く名前で呼ばれたいものだと思いながら千鶴の体を堪能する。
もっと啼かせてみてえ。
骨抜きにされるとはこのこと。
抱きながら愛しくて堪らねえ女はただ一人、千鶴だけだ

*






歳三さん、と初めて口にした時
あまりの恥ずかしさと照れ臭さで顔が熱くなった。
歳三さんも目元が赤く照れたように居心地悪そうに視線を外してた。
ああ、同じ気持ちなんだと思うと嬉しくてもう一度呼ぶ。
「俺まで照れちまったじゃねえか」
そうして私を抱きしめる。
「これから沢山呼んでくれ」
「はい」

*






掛け替えのない貴方に宛てた手紙を
骨の残らない代わりに埋めて貴方のお墓にした。
最初で最後になった私の恋文。
貴方に貰った最期の恋文のお返事です。
私の想いを全て託しました。
歳三さん、と口にすればまだ涙が零れる。
大好きす、今もこれからもずっと。
だから涙で滲んだ所は気にしないでくださいね

*






見た夢は俺が千鶴を求めて手を伸ばす。
置いてきたのは俺の方だ。
邪魔だと言い捨てるようにして。
なのになんでこんなに胸が痛むんだ、ざわつくんだ。
届かなかった手。
きっと千鶴の方が辛い想いをしている。
泣いて縋って傍にいたいと訴えた。
俺はあいつに惚れてる。
離れてわかる事実に手が空を掴んだ。

*






申し訳なさ程度に絡んだ指先が熱を持つ。
祭りの人出に紛れた熱を私はどうしていいかわからない。
「お前は目が離せねえからな」
その言葉すら優しくて柔らかかった。
離れすぎず近づきすぎずちょうどよい距離を
繋ぐ指先をギュッと握ったら握り返してくれた。
それがまた嬉しくて微笑む京の夏の思い出。

*