待ち合わせってなんだかドキドキする。
逸る気持ちを押さえられなくて、時間より早く待ち合わせ場所に。
そうしたら土方先生が来ていて。
「落ち着かなくてな」
少し照れたような居心地の悪そうなそんな表情初めて見た。
「私もです」
先生も同じ気持ちだったのが嬉しい。
「行くか」
さり気なく手が繋がった

*






手を繋いで並んで歩く。
見上げれば愛する人の顔。
こんなにも幸せなことはない。
幸せそうに微笑う貴方を見てまた嬉しくなる。
こんな日々がいつまでも続けばいいのにと願わずにはいられなかった。
「歳三さん」
「なんだ」
「…いえなんでもありません」
長く生きてとの願いは秘め今ある幸せを享受する。

*






暑い季節がやってきた。
江戸の夏も暑かったけどそれ以上に京の夏は暑かった。
けど楽しい思い出もある。
京の送り火を一緒に見たこと、それが一番かもしれない。
でも今は。
過ごし易い蝦夷の地、二人風通りのいい縁側で風鈴の音を聞く。
寄りかかる温もりを感じながら風鈴の音に笑い合う。
幸せな夏の色

*






密かな楽しみになっていた。
お仕事をしている土方さんにお茶をお出しすることが。
最初はそれこそ怖かったけど優しい人だと知ってからは。
「ありがとな」
「いえ、したくてやってますから」
「そうか」
浮かんだ微笑が私の胸をドキドキさせる。
だから全然苦にならない。
土方さんのこと好きなのかもしれない

*






「とんでもない男に惚れたな、千鶴」
「そうかもしれません」
クスリと愛らしい笑みが零れた。
「でもだから好きになったのかもしれません」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか」
土方の顔に満足そうな笑みが浮かぶ。
「俺もとんでもない女に惚れたもんだ。こんなに愛しく想った女は初めてだよ、千鶴」

*






風鈴が揺れる。チリリーンと涼よかな色を控えめに響かせながら。
座る私の膝の上、膝枕する形で眠る歳三さんの寝顔は穏やかでみてる私もつい頬が緩んでしまう。
自然に入るさらりとした風。
その度に風鈴が揺れる。
「何笑ってんだよ」
「起きてらしたんですか!?」
「まぁな」
「幸せだなぁと」
「そうだな」

*






「で、何を書くんだ?」
「そう覗かれては書くに書けません!」
短冊に願い事を書こうとすれば背後から覗き見る歳三さん。
「どうせ後で見ちまうんだ。一緒だろうが」
「それとこれとは別です」
“歳三さんと少しでも長く一緒に過ごせますように“
そう書いた短冊は彼の同じ願いを書いた短冊の横に飾った。

*






「今日は風がないな」
歳三さんが空を恨めしく見上げる。
「あの」
「なんだ?」
気がつけばしっかり抱き寄せられていた。
「暑くないですか?」
「暑い」
「じゃあ離れた方が…」
「断る」
あっさり言われてしまった。
「お前が嫌だってんなら話は別だが」
狡い人。
そう言われたら嫌な訳ないのに。
そんな夏の一日

*






手が触れた。
それから繋がれた。
握り返したら握り返された。
ぎゅっと握られた。
それだけでこんなにもドキドキしてこんなにも幸せになれる。
「千鶴?」
とん…と体を寄せる。
「ずっと握っていたいなぁ…なんて…」
「千鶴が嫌だって言うまで離す気はねえよ」
それから
「俺が離したくねえんだ」
そう囁かれた

*






怖い夢を見た。歳三さんも誰もいなくなってしまう。
呼ばれた声に目を開ければいなくなった筈の歳三さんがいた。
「あ…」
ぎゅうって苦しい位抱き締められて優しく撫でる手に安堵したら別の涙が零れて来た。
「よかった…」
「俺はここにいるよ、千鶴」
どうかいつまでも最愛の人の傍に。
失いたくないから…

*






風鈴が揺れる。
過ごしやすい蝦夷の夏。
「今日にいた頃とは大違いですね」
「だな。こっちは随分過ごしやすい」
緩く扇ぐ団扇の風も涼しく感じる。
「こんなにのんびり過ごすのも久々だな」
「そうですね」
静かに風鈴が流す夏の時間。
二人並んで寄り添って風鈴の音に委ねる。
ささやかな幸せを感じながら――

*






雷が近くで響いた。
土方の袖を千鶴がぎゅっと握る。
ここは学校。
二人の密やかな逢瀬、通り雨が作った二人きりの時間。
「なかなか止みませんね」
震えの残る千鶴の声がした。
「俺は千鶴との時間ができて嬉しいけどな」
見上ている千鶴の顔がはにかむ。
「まだ少し千鶴と一緒にいてえからな」
「…私もです」

*






ぽん…と頭に手を置けば涙が一筋二筋零れ落ちた。
切なく流れる涙を今度は拭って引き寄せる。
「俺の前では泣きたいだけ泣け」
歳三さんがどこかへ行ったのかと思って、そう千鶴は泣きそうな顔で言った。
「すいません」
涙に濡れる小さな声に俺は言う。
「言っただろ、おまえの涙拭うのも俺の仕事だってな」

*






寝てる時なら出来るかな、ってふと思った。
よく強請られる、千鶴からの口付けがほしい、と。
したくない訳じゃない。
寧ろ逆で照れ臭くて気恥ずかしいだけ。
だから。
寝てる時なら――って。
触れるだけの口付けをした時強い力で引っ張られ抱きしめられる。
そこにある笑顔に急に顔が熱くなるのを感じた。

*






「千鶴、ただいま」
「おかえりなさい」
優しいキスをして腰に添えられた腕は離してくれない。
「あ、あの…」
「なんだ?」
「まだ作ってる途中で…」
「旦那より食事の支度か?」
「そういう訳じゃありませんが」
「ならいいだろ。疲れて帰ってきたんだ。千鶴を充電させてくれ」
ぎゅっと抱き締められた。

*