「どうした、千鶴」
「あ、いえ…」
「顔色悪いぞ」
夜の道、この路地裏の話が出ていたのを思い出してしまって途端に怖くなったのだ。
気が付いたら土方先生の服を握っていた。
「ったく」
仕方ねえなとその指先は安心しろというようにぎゅっと握られていた
*土千へのお題は『「仕方なく、指先をぎゅっと握る」キーワードは「路地裏」』
待ち合わせは小さな駅。
自分達の住む街から離れたこの駅の近くで夏祭りが行われている。
土方先生と夏祭りデート。
「待たせたな」
「いえ…」
後ろから掛けられた先生の声に振り返ると大丈夫ですと続く筈の言葉は遮られた。
「どうした?」
初めて見る浴衣姿の先生がかっこよくて思わず見惚れてしまったのだ
* 『浴衣姿の相手にドキドキする』『土千』
変わらぬ青空と太陽を浴びる緑の木々。
何かが変わったわけじゃなく、なのに、
小姓としてでなく初めて二人で過ごす土方さんとの日々は何もかもが違った。
味覚が変わったわけじゃないのに二人で一緒に食べるご飯が美味しいとか。
見る景色が色を加えたように綺麗だとか。
幸せって多分こういうことなんだ
*今日のお題は『青』『味覚』『緑』です。
名前を呼ぶのは凄く恥ずかしくて凄く照れ臭くて。
真っ直ぐに見詰める視線がいたたまれなくて顔を反らしたかったけどあっさり捕まった。
「千鶴」
自分の名で促されたから。
「と、歳三さん…」
すると、あまり見たことない嬉しそうな笑顔で笑うから胸が高鳴って。
なんだかとても幸せに思えて仕方なかった。
さわさわと風が心地好い。
いつも静かなところだけど今日はいつもより静か。
お茶を入れる用意してた手を休めて
縁側で本を読んでいた歳三さんを覗けば柱にもたれて眠っていた。
ふふっ。あまりにも気持ちよさそうで私まで眠くなっちゃう。
歳三さんにもたれたら自然と瞼が下りてきた。
「おやすみなさい」
「これからは俺だけを見てろ。ずっと傍にいろ」
そんな台詞に甘いめまいを覚えそうになる。
そっと持ち上げられた私の手は土方さんの口元に運ばれて口付けられた。
胸が熱くなって涙が溢れそうになる。
「おまえは本当にすぐ泣く」
「すいません、だって嬉しくて…」
次の瞬間には温かな温もりに包まれていた
撫子の花が咲いている。
可憐でさりげなく気高く色を添える花。
千鶴の髪に差せば誂えたようによく似合っていた。
「…ありがとうございます」
綻ぶ笑顔がまるで花のように綺麗で見惚れてしまう。
どの季節も変わらず傍にいる俺の花。
「おまえはいつ見ても綺麗だな」
いつまでも傍でと願わずにいられなかった
「千鶴、あんまり無理するなよ」
そうコツンとおでこを合わせてくる土方さんとの距離が近くて、
大丈夫だと言う言葉は鼓動に消されてしまう。
どうしてお見通しなのだろう。
それすら伝わったのか
「おまえが俺のことをお見通しなのと同じだ。もう少し寝てろ」
離れたかと思った温もりが優しく手に包まれた。
「目を閉じろ」
耳元で囁かれた声はすんなりと私の中に入って自然と瞼が降りる。
ドキドキと心臓の音だけが耳に響く。
息が耳にかかっくてくすぐったい。
さらりと何かが髪を滑る。
「いいぞ」
視界に光るもの。
指輪が下げられていたネックレス。
「これなら出来るだろ?」
小さくてでも確かな重みに涙が溢れた
いつから意識するようになったんだろう。
どうぞと出すお茶を
土方さんが受け取る時一瞬だけ手が触れ合うかどうか。
今日は触れて欲しいと思う気持ちと
やっぱり触れないで欲しいと思う気持ちでドキドキした。
それは夫婦なった今でも変わらなくて。
「いつも悪いな」
ぎゅっと握られた手にまたドキドキする。
*『手が触れ合って意識してしまう』『土千』
「こっちに来いって言ってるだろ」
ふいに引っ張られて落ち着いた先が先生の膝の上だと
気付いた時にはもう遅くしっかりとその腕に抱かれてしまう。
「お、重いですから…!」
「暴れるな、落とすぞ」
「それは困ります」
「じゃあ大人しくしてるんだな」
おずおずとそっと背を預けると二人分の鼓動が重なった
*『抱っこしている』『土千』【SSL】
「好きです」その一言を言うのに凄く勇気がいって。
でも次の瞬間見れたその表情に伝えてよかったと思えた。
「…俺もだ。改めて言うと緊張するもんだな」
照れたように笑った先生につられて笑顔になる。
卒業式。
晴れて恋人同士になるこの日だから伝えたかったその言葉。
同じようで違う幸せな日々の始まり
【SSL】
「千鶴」洗濯物を干し終われば歳三さんに呼び止められた。
「お茶ですか?すぐお持ちしますね」
「いや、そうじゃねえんだ」
歳三さんが私の手を両手で包む。
「え?あの、」
「やっぱり冷えてるな。温まるまでこうしてろ」
ぎゅっと握り込まれた優しさが温かくてそれだけで涙が出そうだった。
「…はい」
*『相手の手を握ってあたためる』『土千』
目の前にある綺麗すぎる穏やかな寝顔に惹かれた。
吸い込まれるように歳三さんに口づけた。
そしてハッと我に返ると何をやってるんだろうと顔が凄く熱くて多分今…
「顔真っ赤にして本当に可愛いことしてくれやがる。起きてる時もしてほしいけどな?」
千鶴と甘く囁かされたそれは私の口の中に溶けていった
*『キスした後に真っ赤になって俯いてしまう』『土千』
そっと触れてそっと離れた初めての柔らかな感触。
無意識のうちに感触残る自分の唇に触れていた。
「なんだ、千鶴」
先生がその手を掴む。
「まだしてほしいのか?」
さっきより熱っぽく色のある先生の瞳に囚われる。
「そ、そういうわ…」
柔らかな感触に言葉は途切れて幸せに満ち溢れた味に酔ってしまいそう
*
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