「千鶴、散歩に出ねえか」
「そうですね」
今日は穏やかな秋の終わり。
空が真っ青に染まっていた。
まるであの浅葱のようで懐かしい姿が重なる。
「どうした?」
「懐かしい色だと思いまして」
あの頃はこの人と添い遂げるなんて思わなかったけど。
「私達を繋ぐ青ですね」
「そうだな」
繋いだ手が愛しかった。

*






小さな気配に目を覚ませば千鶴が
きつく俺の寝着を掴み、離れまいとするかのようにしている。
ピタリと俺の胸に顔を埋めて。
「千鶴…?」
顔にかかる髪をそっと払えば涙濡れた頬が現れる。
その頬を包むように触れればまつげが揺れて千鶴の目を開けた。
親指で淵をなぞり涙を拭う。
「すみません…」
「構わねえよ、しっかり受け止めてやるから。
 それに言っただろ、おまえの涙を拭うのは俺の仕事だと」
ぽろりと涙をこぼして
「はい」
と微笑むからその涙ごと受け止めて額にそっと寄せる。
「千鶴、俺はここにいる。一人で泣くな」
篭る力に抱き締めた。
もう少し生かしてくれと願わずにいられねえ、これだけ俺と生きる人生に
幸せを見てくれるただ一人の愛した女が泣く姿には。

*






いつもその背中は前にあった。
私を守り庇い少し前を歩き遠く離れたことも。
ずっと追いかけてた。そして今。
空を見上げるその背中に触れることができる。
そっと近付いてぎゅって抱き締めたら歳三さんの柔らかな笑顔が振り返る。
「どうした?」
「なんか幸せだなと思いまして…」
「俺も幸せだよ、千鶴」

*






二人の足跡が行き、二人の足跡が帰る。
そこには私と歳三さんだけの幸せな暮らし。
何かあるとすぐ私は抱き寄せられる。
それは暖かくて安らぎで手離せない。
「たまに…このまま離れたくないと思ってしまいます」
「ああ、俺もだよ千鶴」
静かな雪が作る私達の幸せの苑。
甘い口づけにすがって享受するの。

*






「失礼しま…っきゃっ!」
入室した途端強い力で引っ張られた。
ドアが閉まった時にはもうしっかり抱き締められていた。
「千鶴…逢いたかった…」
切実な声に私は小さく笑って答えた。
「…私もです」
先生の背に腕を回す。
なかなか逢う時間が作れなくて。
直に伝わる温もりに幸せすぎて泣きそうだった

*






「おまえがいないからつまんねえ」
突然耳元で聞こえた低い声に心臓が高く鳴り。
「もう終わりますから」
後ろから包まれる温もりに鼓動が速くなる。
「嫌だ」
「本を読んでたんでは…」
「目の前に千鶴がいるのにか?」
直接かかる息がくすぐったくって。
「耳が赤いぞ?千鶴」
小さく笑う声に降参してしまう

*






限りある命、凄く不安で恐いけれど。
だからこそ二人大事に生きようと決めた。
「千鶴」
差し出された貴方の手。
柔らかな眼差しにも照れてしまう。
自分の手を乗せれば強く握られ引き寄せられて。
「今日のご飯どうしましょうか」
「おまえに任せるさ」
「昨日もでしたよ」
幸せな日常が長く続きますように

*






私は今土方先生の上に座っている。
しっかり先生に抱きかかえられて。
恥ずかしさ半分嬉しさ半分とあと照れくささとでも凄く居心地がいい。
今日はバレンタイン。
土方先生にチョコとプレゼントを渡したらこうなってしまった。
口の中に残るチョコの甘さと…キスの感触。
大好きが少しでも伝わったらいいな

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離れた筈なのに残った感触が愛しくて溜まらなくなる。
逃したくなくて自分の唇に手を添えた。
「どうした?」
優しい温もりを宿す瞳が私を見ていた。
胸のずっと奥まで満たされる。
「いえ…あの、歳三さん」
「なんだ?」
「…私を好きになってくれてありがとうございます」
綺麗な笑顔と力強い腕に包まれた。

*






遠くの空で雷が鳴る。
春の訪れを告げる春雷。
雨が降る前に洗濯物を取り込もうと
戸を開ければ微かに暖かな香が漂う。
「今年ももうすぐだな」
思いの外近くに聞こえた声に振り返れば
目の前に歳三さんの顔があってびっくりしてしまった。
「また桜、見に行くか」
「はい!」
また一緒に迎える春が待ち遠しい。

*






障子が開く音と人の気配に目が覚めた。
「土方さん…」
「起こしたか?」
「大丈夫です…」
羅刹隊士に切られた傷は塞がり始めた。
でも目を瞑ればその出来事が甦る。
「怖い思いさせたな」
「いえ…」
「そうか。起こして悪かった」
側に感じる安堵できる温もりに自然と瞼は重くなる。
「俺がいるから安心しろ」

*






歳三さん、呼んだ声に返事はなかった。
覗いてみれば眠る歳三さんがいた。
少し心配になって近付いてみれば規則正しく動く体にホッとした。
隣に座り恐る恐るあまり触れることのなかった顔に
手を伸ばした時、ふいに力一杯引き寄せられた。
悪戯で優しい微笑に私も思わず笑顔になる。
自然と唇が重なった。

*






私の目の前に鎮座しているのは小さな変わり雛。
横を見上げれば歳三さんがにこやかに笑った。
「今まで飾ってやれなかったからな」
そして今度は居心地が悪そうに。
「これ位しか出来なかったが…」
「いいえ、私には十分です」
私の為…それだけで。
「ありがとうございます」
歳三さんにそっと寄り添った。

*





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