やばい、寝ちまったようだ。
どこまでやったっけ。
とりあえず密書だけは仕上げねえとまずいよな。
ん?なんだあ?

覚醒しつつある意識と共に目を開ければ、
見慣れぬ世界が広がっていて、俺は珍しく寝ぼけちまったのかと思った。
だが、いくら待っても景色は変わらない。

夢か?

目を開けた時、俺の視界に映ったものは、
文机の上の書類――ではなく、まさに木、そのものだ。
その上が見づらい。
文机の下から壁がよく見える。
それも随分と下の部分が、だ。

「なんだこれ?!」

よく自分の体を見てみれば。
どうにも可愛らしい姿になっちまっている。
ついさっきまでは確かにちゃんとした姿をしていた筈だが……。

「どういうことなんだよ、一体!」

怒鳴り散らすも自分の姿が大きくなるわけでもなく、ため息しか出てきやしねえ。
この状態で他のやつらに会うのはまずい。

「はあ…どうすりゃ元に戻るんだ…。」

途方に暮れていると、パタパタと聞きなれた足音がした。

「土方さん、雪村です。お茶をお持ちしました。」

まさかこんな時に千鶴がお茶を持ってくるとは。
だが、入るなと今まで言ったことがねえから、ここで断れば変に思われるか?
いや、だからと言って入られて今の姿を見られるの困る。

「土方さん?」

返事がないのを不思議に思ってか、再び声をかけてくる。

最善の方法はどっちだ?

がらにもなく判断を迷っていると、
気配があるのに返事がないことに心配になったのか、
不安げな声で千鶴の声が響いた。

「土方さん、大丈夫ですか?入りますよ。」
「いや、待てっ!はい――…」

一歩遅かった。
俺が静止するより早く千鶴が入室してしまったのだ。
千鶴がどんな反応するのか、恐ろしくて仕方ねえ。
だが、返ってきた反応は意外なものだった。

「土方さん、いらっしゃるならお返事してください。
倒れてるんじゃないかと思いましたよ。」

むくれたような千鶴の言葉に、俺はただ呆気に取られるしかない。

「あ、ああ、悪かったな。ちょっと考え事してたんだ。」

歯切れの悪い俺の返事にやや訝しげながらも、
千鶴は盆に載せた茶を俺に差し出した。
さして、その仕草にいつもと変わった点も動揺したり驚いたりしてる点もねえ。
何もかもがいつもどおり過ぎて俺は逆に戸惑ってしまう。

「お茶をお入れしましたので、ちょっとは休まれて下さいね。」

俺が大きすぎる湯のみを受け取ると千鶴はにっこりと微笑んだ。
その時俺は違和感を感じた。
すぐにその違和感の正体がわかった。

千鶴と目が合わねえんだ。
俺は千鶴を見上げるように見ているのだが、
千鶴は何も変わらず俺を見上げるように見ている。

普段、どれだけこいつが俺のことを見ていたのか、今更ながらよくわかる。
千鶴と目が合わない、それがこうももどかしいとは思わなかった。
その栗色の瞳が見てえ。

てえことはつまり、千鶴の目に映る俺は何も変わってねえってことだ。
確かに俺は小さくなってしまった筈だが…?

どういうことだ?
俺だけが小さくなった自分の姿を見ているのか?

「なぁ千鶴。」

退室する仕草を見せていた千鶴に、俺は聞いてみた。
俺が名を呼んでも、やっぱり千鶴と目が合うことはなく、
千鶴は俺の顔があるんだろうところを見上げて

「はい。」

と返事をしていた。

ちっ

思わず出た舌打ちは、千鶴には聞こえなかったようだ。

「おまえには俺がどう見えてんだ?」
「へ?」

その質問の意図がすぐにはわからなかったらしい。
無理もねえか。
いきなりどう見えてんだと聞かれりゃ誰でも戸惑うか。
少々逡巡しながら千鶴はじっと本来の俺の顔を見ているようだ。
今の俺はもっと下の方にいるんだが、どうして気付いてくれねえんだ。

「少しお疲れのようです。
土方さんがそんなこと聞くなんて珍しいですね。
やっぱりお疲れなんじゃないですか?」

心配そうな千鶴の声が降ってくる。
わかったのは、俺が今あまりいい顔をしていない(らしい)ということと、
千鶴から見る俺はいつもと変わらぬ姿だってことだけだ。

「おまえに心配されるとは俺もザマあねえな。」

苦笑すれば、千鶴は綺麗に笑った。
出来ればその顔をちゃんと見たかったと思ってしまうのは、
やっぱり下から見上げるといういつもと違う環境だからか。

「土方さんは働きすぎなんですよ。」

鈴が鳴るように笑い、またしばらくしたらお茶をいれますと部屋を辞していった。

この姿じゃ、文机にも届かねえし、下手に部屋から出ることも出来ねえ。
総司に見つかるのは絶対に避けてえし、
原田や新八あたりには間違って踏まれてもかなわねえしな。
ああでも、千鶴みてえに他のやつらにはいつも通りの俺に見えるのかもしれねえ。

だからっていってこのままでいるのは是が非でも避けなければ。
一体どうやったら戻るってんだ。

俺はどうしようもなくなって、部屋に寝転がった。
見える天井だけはいつもと変わらねえ世界だった。



「土方さん。」

聞こえてきた千鶴の声に目を覚ました。
ゆっくり明けた視線は、表情を曇らせて覗き込む千鶴。
一つ瞬きをして、あっという間に頬を染める姿は愛しさ以外の何を感じよう。

ん?
千鶴の顔がちゃんと見れるってことは、俺は元に戻ったのか。
いや、待てよ。
そもそも小さくなってた時、
俺も千鶴もまだ洋装などしていなかったし、屯所だった筈だ。
ここは、函館五稜郭。

「土方さんお休みになるのなら、机でなく寝台に行かれてください。」

千鶴の気遣う言葉に、俺は思わず笑ってしまった。
ああやっぱりあれは夢だったんだな。
そう思った途端、すげえ安堵したのはなんでだろうな。

「土方さん?」
「この方がいいな。」
「何がです?」
「おまえの目見て、話をするのが、だよ。」

千鶴が逃げねえように、その後頭部を手を添えるようにして捕まえて、
夢の中で見れなかった千鶴の顔と栗色の瞳を見ながら教えてやる。
恥ずかしさと照れから微かに潤んだその瞳が、
逃げようと彷徨って逃げ場がないと悟ったのか、俺の目を遠慮がちに見てきた。
これからもこの瞳が見れりゃいい。
もう二度とあんな夢は見たくねえな。






3333hitユキ様より
「ギャグテイストな土千」

この度はリクエストありがとうございました!お待たせして申し訳ありません
ご期待に応えられたえしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
ちゃんとギャグテイストになってるでしょうか…
わかりにくいですが、イメージは土方さんが遊戯録のミニマムver.になっちゃっうっていう夢オチです。
目が覚めた=現実に戻った時代設定は函館になっています。
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、サイトに来ていただけたらと思います。