土方が準備室に戻ると、窓に手をつけて、ある一点を見つめる千鶴の姿があった。
そっと歩み寄る土方には、千鶴が泣いていると何故だかわかっていた。
それから、千鶴が見ている先も。
確かもう花が終わり、若葉繁らせている桜並木がある筈だ。

「なに泣いてやがる。」

千鶴の横に並ぶと、土方はその手を優しくポン…と千鶴の頭に乗せた。

「…泣いてません。」

声が震えないようにしているからか、固い口調のまま千鶴が小さく主張した。
土方は頭に乗せた手を外し、肩へと移動させると、華奢な千鶴の体をぐいっと抱き寄せた。
一瞬千鶴が息を飲むようにしたのが、腕を伝って土方へと教える。
俯かせる千鶴の顔へもう片方の手を伸ばし、綺麗なラインを作る涙を受けとった。
そうされては、千鶴も泣いてないと主張することは出来なかった。

「わかってるんですけどね。」

こてんと土方の胸に体を預けて、千鶴が呟いた。
継がれた魂の記憶が千鶴の涙を誘っていた。
二人には記憶があった。遠い昔、幕末の動乱を掛けぬけ、二人幸せに過ごした記憶。
東京の桜が終わり、1ヶ月遅れて春が来る北海道――遠い昔蝦夷と呼ばれていた――で
満開の桜とともにあの時代の土方が生を終えたのだ。

「まぁあれはおまえには辛い想いをさせたからな。」

苦々しく土方が吐き出す。

「でも、一緒に過ごした日々は幸せでした。」
「だからってまたおまえがおっかけてくるとは思わなかったぜ。
 今度は俺がと思っていた俺の気持ちはどうなる。」
「だってお傍にいたかったんですもん。」
「俺もだ。ったく少しは俺に華を持たせやがれ。」

クスクスと千鶴が土方の腕の中で笑う。
高校を受験する時、
幾つか取り寄せていた高校の資料の中に紛れていたの薄桜学園の資料。
そこに載せられていた土方の写真を
偶然か必然か見付けた千鶴は迷わず薄桜学園に入学したのだ。
そして、桜満開の並木で土方と再会した。

「でもよかったよ。俺は内心ヒヤヒヤしたぜ。俺の仕事奪われてるんじゃねえかってな。」

――おまえの涙を拭うのも俺の仕事だ

「土方先生はいつも心配性なんですよ。私はあなたのものなんですから。」

そう土方を見上げた千鶴の瞳にはまだ涙が滲んでいた。
千鶴を見つめる土方は、優しく慈しみを讃えた微笑みを浮かべていた。

「大丈夫だ、千鶴。俺は昔のように明日をも知れない命じゃねえんだ。
 昔早く逝った分長く生きてやるつもりだからな。」
「だったら、少し煙草を控えて下さいね。土方先生ヘビースモーカー過ぎます。」

キッと強い眼差しで見上げるものは、いつの日も変わらないもの。
それと同じように、その眼差しに敵わないのも変わらない。

「わかったよ。少しずつ本数減らしてみるか。」

そう言いながら土方は、千鶴の頤を掬い、
約束の印だと言わんばかりに触れるだけの口付けをする。

「あんまりおまえ心配させたくねえしな。本当おまえにはかなわねえよ。」
「江戸の女ですから。」
「今は俺の生徒の癖に。」

笑いながら、土方はほんのり赤く染まった千鶴の額を小さく小突く。

「そうでした。」

つられるように、千鶴の顔にも花のような笑顔を浮かべた。
そこにさっきまでの寂しそうな不安げな様子はなく、土方を安心させた。
眦を下げて愛しそうにする土方に、
花の色を濃くした千鶴を合図にもう一度二人は唇を重ねた。

「これからは新しい幸せな記憶を重ねていくか。もう千鶴が悲しまないようにな。」

土方の言葉に、千鶴がどこかくすぐったそうに、でも嬉しそうに、満面の笑顔を浮かべた。





タイトル:お題サイト「4m.a」様よりお借りしました。





4444hitゆか様より
「土千SSLか転生SSL」

この度はリクエストありがとうございました!お待たせして申し訳ありません
ご期待に応えられたえしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
なんかしっとりしてすいません…。土千転生SSLとして書かせていただきました。
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、サイトに来ていただけたらと思います。