もうこの頃には土方の傷もすっかり癒えていた。
「俺も行く。」
買い物に行くと土方に言い置いて、千鶴が家を出ようとした時だった。
だからか、普段は諾の返事をする土方がそう声を掛けた。
「家にいると体が鈍って仕方ねえからな。そろそろ動かねえと。」
「そうですね。土方さんと出掛けるのって随分久しぶりな気がします。」
並んで家を出れば、千鶴が嬉しそうに笑った。
それもその筈である。
土方と千鶴が想いを通じ合わせ、確かめ合ったのは、五稜郭が新政府軍に襲撃する前日の出来事。
勿論、それまでに二人出掛けることがあったにはあったのだが、
仕事抜きで出掛けたことなんて片手で数えるほどあったかどうか。
この地で二人暮らし始めてからは、
土方が函館戦争で傷を負い療養に当てていた為、一緒に出掛けることはまだなかったのだ。
「そうだったな。」
この時はまだ、土方も千鶴とただ一緒にいたかったという気持ちだけだったのだが。
千鶴と共に人里に降りてみて、それは瞬時に変わった。
「おう、隣にいる色男は誰だい?」
「どういう関係だ?」
立ち寄れば、女だけでなくあっという間に男が千鶴に言い寄る。
途端に土方の眉間に皺が寄った。
「俺の女に何か用か?」
親しげに話す男から千鶴を離すように、土方は千鶴の肩を抱き寄せた。
まるで予想外でしかなかった土方の行動に、千鶴は驚いて目を見張るしかない。
「土方さん?」
見上げる綺麗な顔は、どこか不機嫌そうにしている。
それどころか、その紫の瞳に鬼の副長と呼ばれていた頃の鋭い眼光を見た気がした。
当然、千鶴に話しかけていた男達は、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまっている。
「千鶴、買うのはどれだ?」
「あっはい!これとこれと…。」
千鶴には穏やかに変わらぬ姿を見せた土方に、戸惑いは覚えた千鶴だったが、
自分に対して機嫌が悪いわけじゃないようだとわかり、ほっと胸を撫で下ろした。
しかし、次のお店に行く最中、やはり土方の機嫌が悪くなる。
「千鶴ちゃん、いいのが入ったよ!」
そう野菜を売っている店の男が声を掛けた為である。
深い皺が刻まれた土方に、まともに見てしまった声を掛けた男はひるんでしまう。
「こんにちは。それ、いただいていきます。」
土方の変化に気付かなかった千鶴は、いつもしているようににこやかに対応したのだが。
「あいよ。珍しいな、千鶴ちゃんがそんな色男と歩いてるなんて。」
「今まで療養してたんです。もうすっかり治ったのでそれで。」
「そうだったのかい?ってことは千鶴ちゃんがずっと看病してたのか?」
「はい。」
ふわりと笑った千鶴とは対照的に、土方は変わらず顔を顰めたまま。
それどころか醸し出す分に気は僅かに酷くなっているのかもしれない。
「へぇ。羨ましいねえ。どういう関係なんだい?気になるねえ。」
下心を隠さず千鶴と話を続けようとする。
この手のことに富に鈍い千鶴は男の考えなどわかるはずもない。
「あの、それは…」
僅かに土方に視線を投げ、
さっと頬を染めた千鶴ははにかんだようにも幸せそうにも見える表情へと変える。
千鶴の男の目を引くだろう、愛らしい表情に、
更に土方の眉間の皺は深まったようにも見え、咄嗟に千鶴の体を自分の方へと引き寄せた。
やはり最初こそ驚いた様子を見せた千鶴だったが、なんら抵抗せず、
先程からの土方の突然な行動に不思議そうにしながらも、嬉しそうに腕の中に納まる。
「察してもらえたらありがてえんだが。」
不敵な笑みを浮かべた土方の目は笑っていない。
千鶴の反応に心底残念そうに落胆した男は、釘を挿したような土方に
「お…お幸せに…。」
と若干震えた声で持って送り出した。
「千鶴、行くぞ。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
促された千鶴は、男の様子に首を傾げながらも頭を下げて土方と共にお店を後にした。
「まだ買うものはあるのか?」
「あとはそうですね、お味噌が少なくってきたので、お味噌を買って終わりです。」
「なら早いとこ買って帰るぞ。」
土方の口調はややむっとしていた。
つられて土方を見れば、眉間の皺は取れてるようだが、あまり表情はよくなく、やはりむっとしていた。
機嫌が直ってないことが見て取れる。
「土方さん、なんか怒ってませんか?」
「気のせいだ。」
たまらず声をかければ、そう返ってくる。
傍にいた時間が長い千鶴でなくても、気のせいには見えない。
「なんか様子もおかしいですし。」
「気のせいだって言ってんだろ。」
納得がいかずに重ねて聞いてみれば、同じ答えが返ってくるだけである。
そうして歩いている間にも、千鶴を見かけて声をかけてくる男達。
比例するように土方の機嫌は悪くなり、一つ舌打ちをした。
思いの外大きかったようで、千鶴がビクっと肩を揺らした。
「悪い。」
安心させるように、土方は千鶴に笑うと、空いてる手を握った。
「おまえは何も悪くねえよ、ああでも、悪いっちゃ悪いか。」
繋がれた手に、気恥ずかしげに顔を赤くする千鶴に、土方は今度はどこか困ったように笑う。
「どういう意味ですか、それ。」
「おまえはいい女過ぎるんだよ、その自覚もねえで愛想ふりまきやがる。」
「そ、そんなつもりは…。」
「わかってるよ。ったく、俺が伏せってる間に他の野郎共が懐きやがって。大体誰の女だと思ってるんだ。」
明らかに機嫌が悪くなる土方。
けれど、それはどちらかといえば、拗ねているようにもむくれているようにも見える。
言われた言葉で、今までの土方の行動理由がなんとなくわかった気がした。
「もしかして…嫉妬…ですか?」
「…だったらなんだってんだ。」
心持ち小さくなったぶっきらぼうな答えと、少し目元が赤くなっているようにも見える。
あまり見られない土方の姿に、千鶴は
「ふふ。」
と思わず笑ってしまった。
すると益々、バツが悪そうに千鶴から視線を逸らした。
「ふふ。じゃあ早くお味噌を買って帰りましょうか。」
「そうだな。」
やんわりと気にするでもなく、土方に笑いかけた千鶴に、漸く土方も彼らしい笑顔に戻った。
とはいえ、結局残りの味噌を買う時も
「あの、すいま――」
「すまねえが味噌をもらえねえか。」
千鶴が出てきて声をかけてきて出てきた人が男だとわかると、
千鶴に取って代わって土方が買い物をするなどしていたが。
千鶴はというと、呆れたように嬉しそうに笑いながら見守っていた。
土方が、肩の力を抜いて穏やかな顔に戻ったのは人里から自分の家へと戻る道にかかってからである。
その日の夕餉が済み、食後のお茶で一息ついていた時だった。
「結構土方さんって嫉妬深いんですね。」
千鶴は思い出したかのように、くすくす笑う。
千鶴の隣では土方がバツが悪そうにしている。
「仕方ねえだろうが。俺が出たくとも出れねえでいたっていうのに、
その間にあいつらは千鶴と仲良くしてたんだろ?
今日だって千鶴が町に出た途端我れ先にと千鶴に話しかけやがるし。
これが嫉妬せずにいられねえだろ。千鶴は俺の女だから誰にもやるかってんだ。」
買い物に出た町中で見た時のように、土方の目元は微かに朱色になっているようにも見える。
拗ねたような口ぶりに、俺の女だという言葉に
千鶴も頬を染めながらも、可愛いと思わずにいられなかった。
「ふふ。なんだか可愛いです。」
「あ?男に可愛いなんていいもんじゃねえよ、千鶴。ま、この笑顔は俺だけ見れるもんだからな。」
眩しいものを見るように目を細めて、土方は愛しいその体を優しく抱き寄せて、腕の中に閉じ込めた。
「俺は千鶴に限っては独占欲がかなり強いんだよ。
だからな、その笑顔をも声もおまえの姿も誰にも見せたくねえって思っちまう。
だから今日みたいにあらゆることに嫉妬しちまうから覚悟しとくんだな。」
「はい。でも、それだけ土方さんが私を想ってくれてるってことですよね?だから凄く嬉しいです。」
ふわりと色の綺麗な花のような笑顔を浮かべて千鶴が言った。
それから、気恥ずかしいのか土方の胸に顔を埋めた。
「それに土方さん、私も意外と独占欲が強いんですよ。
町ですれ違う女の人の視線やお店の女の人の視線が土方さんに行く度に気が気じゃなくて。
土方さんも同じだったのが嬉しいんです。」
「ほう、嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。だがな千鶴。」
自分の胸に顔を埋めている千鶴の顔をあげさせると、
触れるだけの口付けをして、耳元へとその場所を移す。
「俺はおまえをこの腕に閉じ込めて何もかもを独占してえって
それくらい俺は思ってるんだ。誰にも見せずにな。」
直接囁かれた土方の言葉に、千鶴はふるりと震えた。
それから、土方の首に両手を回して抱きつくようにする。
「じゃ土方さん、今度からは一緒に買い物に行きませんか?」
「当たり前だ。一人で行かせたら俺は嫉妬で狂っちまいそうだ。」
「大げさですよ。」
「だから言ったろ?千鶴は俺だけの女で、俺は独占欲が強く嫉妬深いんだ。」
土方の言葉に、更に耳まで色を濃く染めた千鶴が、
土方から目を離そうとした時、まるでそうはさせまいと土方が唇を重ねた。
「千鶴、おまえは俺だけを見ていればいいんだ。」
「私は土方さんしか見てませんよ。土方さんが私だけを見てくださってるように。」
Title:「rewrite」様【恋愛に臆病になる10の感情】より
9000hitかすみ様より
「土方さんが千鶴にとにかく嫉妬するお話で、最後は甘々な感じで」
この度はリクエストありがとうございました!お待たせして申し訳ありません
ご期待に応えられたでしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
町にいた全ての男の人に嫉妬してるんです、この人は。これを目指して書いたはずですが
うまく土方さんがとにかく千鶴ちゃんに嫉妬しているように書けたかが不安です…。
最後の甘々足りてますか?(笑)
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、遊びに来ていただけたらと思います。