北の地は、とても空気が澄んでいて綺麗だった。
この地に最初に来た時は、深い雪に覆われた冬の最中。
新しく生活が始まった時には、桜の花が散りはじめた春の日。
今は緑眩しい季節。
「千鶴ー。」
呼ぶ声は縁側から。
そろそろお茶の時間だと、私は勝手場で準備をしていた。
「すぐお持ちしますー。」
「おう。」
あまり大きな声を出さなくても、互いの声が届く。
二人分のお茶が入ると、土方さんが待つ縁側へと足を運んだ。
時折、気持ちのいい風が吹く、蝦夷の夏。
蝉の声が届く人里離れたこの家には、私と土方さんだけ。
「お待たせしました。」
「悪いな。」
手元から目を離した土方さんが、優しく笑って私の手から湯飲みを取る。
私はその隣に座って。
「もう傷の方は大丈夫ですか?」
弁天台場に援護に向かう途中、銃撃を受けた土方さんは、長いこと療養していた。
傷が治り、元の生活に戻ったのはまだ最近のこと。
「ああ大丈夫だ。心配かけたな。」
「いえ。元気になってよかったです。」
ポツリポツリと話す会話より、静かな時間の方が多いかもしれない。
なのに、全然イヤじゃなくて、それすらも居心地のよさを感じてしまう。
やっと慣れた、土方さんのすぐ真隣の新しい定位置。
土方さんがお茶を飲む。
一陣の風が吹いて、近くに咲いていたのか、何かの花弁が舞う。
何気なくその行方を目で追っていたら、穏やかな横顔に出逢う。
「どうした?」
視線に気付いた土方さんが振り向いて、思ったよりも近い距離に驚いて心臓が跳ねる。
思わず離れようとしたのに、土方さんの手が頬に触れるのが早くてそれが出来なかった。
土方さんは、とても優しくなった。甘くなったというか。
五稜郭に初めて訪れて、受け入れてもらってからもそう思ったけど、
今はその比じゃないから、私がもたないんじゃないかと思うくらいで。
「な、なんでもないです…。」
顔が熱い。
「その割にはなんでもねえって顔してねえよな?」
ニヤリと笑う。
こうなっては逃げられない。
いつも勝てるわけなんて、ないのだけど。
「ただ…。」
「ただ?」
「土方さんの横顔がとても穏やかに見えて、嬉しかったんです。」
喧々と鋭い眼差しと、眉間に皺を寄せて厳しい顔をしたあの頃とはまるで違う、
穏やかでとても柔らかな表情をするようになって、まとう雰囲気すら柔らかい。
優しい愛情をそこに感じることが出来る。
「随分柔らかい表情で笑われることが増えましたよね。」
「そうだな。もう鬼である必要はねえし、千鶴がいるからな。」
優しい眼差しに目が離せない。
凪いだ色に、自分だけが映るのが贅沢にも感じる。
たまらない愛情を感じて、心のずっと奥が幸せだとざわつくの。
「私、ですか?」
「おまえが俺の隣にいるだけで、ああ幸せだなって思うんだ。落ち着くんだよ。」
もう片方の手が伸びて、あっさり私は土方さんに捕まってしまう。
胡坐をかく足の上に抱えられるように、抱き寄せられる。
こうして、土方さんの腕の中にいる時間も多くなった。
落ち着く場所。
「千鶴、何かしたことはあるか?」
「何もありません。土方さんがいてくれるだけで、何も。
そういう土方さんはしたことありますか?」
「俺も何もねえな。おまえがいるからそれでいい。何しろ、今まで千鶴と二人で
ゆっくり過ごす時間なんてなかったからな。のんびり過ごしていくのも悪かねえだろ。」
「私もそう思います。」
ゆったりと全身を委ねるように、土方さんに体を寄せる。
「少しは甘えてくれるようになったな。」
「そうですか?」
「まだ足りねえけど。」
頭に感じる柔らかい感触に目を瞑れば、額に瞼に頬にと降りてきて、唇に重なる。
こんな毎日が続けばいいのに。
「今日のお夕飯はどうしましょうか。」
「千鶴の作るもんはなんでも上手いからな、なんでもいいな。」
「いつもそれじゃないですか。」
「仕方ねえだろ、本当のことじゃねえか。それに、なんだかんだ言って
いつも俺の好物を並べてくれるのはおまえだろう?そんな千鶴が好きだよ。」
何気ない日常を、愛する人と愛されながら暮らしていくのはとても幸せ。
さりげなく言われた言葉に、嬉しくって満たされて
何も言えなくなった私に、土方さんは同じ言葉を繰り返してくれた。
耳元で震えた音がとてつもなく甘く響いた。
13131hit 櫻花様より 「ED後の土方夫妻のラブラブっぷり」
この度はリクエストありがとうございました!お待たせして申し訳ありません
ご期待に応えられたでしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
ラブラブになってますか?足りなかった気がしますが…
夫妻の日常生活(千鶴ちゃん視点だけど)観察日記にしてみました(笑)
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、遊びに来ていただけたらと思います。