島田と大鳥が五稜郭に戻って来た時、
入れ替わるように土方と千鶴が外出をするところだった。
土方の横に寄り添うようにいる千鶴は嬉しそうだ。
土方も、まんざらではないようで不機嫌さは否めないものの、
滅多に見られない穏やかな笑みで千鶴を見ていた。

「島田さんに大鳥さん。おかえりなさい。」

千鶴が二人に気付き声を掛けた。
土方の顔が面白くなさそうに歪む。
反対に大鳥は面白そうだ。

「やあこれから二人で逢引かな?」
「何言ってんだ。榎本さんに押し付けられたんだよ。
千鶴、おまえも真に受けんな。」

からかう大鳥の言葉に頬を染めていた千鶴に土方は苦笑する。

「押し付けられたというのは?」

島田が土方に聞いた。

「ああいや、お偉いさんとこへのおつかいみたいなもんだ。
ついでに今度会合に使う料亭をに行って下見してきてくれとな。
ったく俺だって仕事が山積みだってのに。」
「ずっと執務室で書類とにらめっこで、休んでくださらないんですもん。
こうでもしないと土方さんは休まないんですから、榎本さんが気を遣ってくれたんですよ。」

めんどくさいと言わんばかりに不機嫌な土方に、すかさず千鶴が口を挟む。

「おまえも俺が休めって言っても休まないだろうが。」
「それは土方さんが休まないからです。」
「だからこうして榎本さんの言う通りにしてんだろうが。」
「だったらゆっくり休まれてください。」
「わかってるよ。」

さすがの土方も千鶴にはかなわないらしい。
その証拠に

「本当おまえにはかなわねえな。」

と嘆息する土方の姿がある。
それから

「だからおまえも休むんだ。」

と千鶴に優しく言う。

「えっ私もですか?」
「当たり前だろ、榎本さんもそのつもりだろうからな。
じゃなかったらきっちり予約までしてねえだろ。遠慮すんな。」

驚き遠慮する千鶴に、土方は見下ろし覗き込むように言った。
そこに鬼と呼ばれた片鱗はなく、
慈しむような土方の姿はまるで別人のようかもしれない。
広がった甘い空気に、やれやれといった大鳥と、
やや驚いたようなでもほっとしたような島田。

「はい。」

千鶴が笑顔で頷いたのを見て、土方は満足げに笑う。

「ああそうだ、島田。」

と、土方が何かを思い出したように島田に話しかけた。

「なんでしょう。」
「今日は遅くなるかもしれねえから、
今日の視察の報告だったら明日にしてくれねえか?」
「ああ、はい、大丈夫です。」
「すまねえな。」
「いえ。」
「おや、朝帰りかい?羨ましいねえ。」

大鳥が悪戯っけたっぷりに土方をけしかける。
が、土方は余裕たっぷりに大鳥に返す。

「そうも言ってられるのも今のうちだぜ、大鳥さん。」

その顔がニヤリと笑ったが、大鳥はなんだかいやな予感がした。
千鶴が申し訳なさそうにしているのを見て、
大鳥はその予感が正しいことを確信するのだった。

「あんたの机の上、今頃書類が乗ってるぜ。
急ぎの書類で大鳥さんでも出来そうな仕事は全部回させてもらったからな。」

みるみるうちに大鳥の顔色が悪くなる。
曲がり間違っても上官は大鳥の筈なのだが。

「断ろうとしても無駄だぜ。言い出したのは榎本さんだからな。」
「すいません、大鳥さん。」
「じゃ、俺達は行ってくるから後は頼んだぞ、島田。」
「はい、いってらっしゃいませ。」

島田の見送りの言葉を聞くと、千鶴を促して歩き出した。
何か千鶴と話しているのか、時折互いの顔が向き合う。
手を繋ぐわけでもないが、それでもぴったりと寄り添う二人は、
上官と小姓というより恋人同士に近いのかもしれない。
千鶴の顔は見るからに幸せな様子だし、
それを受け止める土方の視線も表情も全ても柔らかく穏やかで。

「あんな土方さん初めて見たかもしれません。」

そんな二人を何をするわけでもなく見ていた島田は、
げんなりと肩を落とす大鳥に話しかけた。
大鳥も仲睦まじい二人を見やる。

「島田君は長いんだっけ。」
「はい、新選組がまだ浪士組と呼ばれていた頃からの付き合いです。
あの頃は、まさに鬼の副長という言葉がぴったりでした。
平隊士だけでなく、幹部にも厳しい人で。
仕事ばかりしているところだけは変わりませんが。」

懐かしいのか、島田の視線は
だんだん小さくなる二人を見ているというよりは、遠くを見ているようだ。

「もし、幹部の皆さんが生きていて今ここにいたら、
土方さんの今の変わりようは驚くんじゃないでしょうか。」
「それもこれも雪村君のおかげかな。」
「俺もそう思います。お二人とも幸せそうでなによりです。
土方さんも雪村君の前ではあんなにいい表情するんですね。
さっきの雪村君を見る土方さんの表情がとても穏やかで、びっくりしてしまいました。」
「土方君の部屋にしょっちゅう出入りしていると、いやというほど見るよ。」

毎日のように土方の部屋に通っている大鳥が、その場面を思い出して肩を竦めてみせる。

「そうなんですか?」

大鳥とは違い、用事が無い時や会議の時と必要な時以外
立ち寄らない島田からはなかなか想像が付かない。
もう、土方と千鶴の姿は見えなくなっていた。

「君みたいな土方君の昔を知っている人から見たら絶対驚くよ。
まるで愛し合ってる夫婦そのものなんだから。
変にからかうとすぐ惚気られるし、ああ見えて結構土方君独占欲強いしね。」
「はははは。あの土方さんがですか。」
「それだけ、雪村君のこと想ってるんだよね、土方君。
心の底から雪村君を大切に想ってるんだよ。」
「そうですね。雪村君が土方さんの心の安らぎになってるんでしょうね。
お二人、互いが互いを必要として、想い合ってるのが伝わってきます。」

大鳥と島田は五稜郭の中へと歩き出した。
そういえば、と大鳥が何かに気付き、思案気に島田に聞いた。

「島田君、土方君はきちんと雪村君に気持ちを伝えてるんだろうか?」
「え?あの様子からだと伝えるんじゃないんですか?」

そう答えた後、島田は苦笑して自分の答えを否定した。

「いえ、もしかすると土方さんは伝えてないかもしれませんよ。」
「やっぱりそう思うかい?」

どうやら大鳥も同じ考えだったらしく、大きなため息をつく。

「土方さんのことだから、戦が終わるまではって思ってるんじゃないんでしょうか?
雪村君を仙台に置いてきた経緯を考えると。」
「僕もそう思ってたんだよねぇ。
あの二人見てると心配ないかとも思うんだけど、もどかしくて仕方ないんだよね。
だってさ、あれだけお互い想い合ってるんだよ?
お互いの気持ちに気付いているんだと思うんだよね。
さっさと祝言でもあげちゃえばいいのにって思うんだ。」

そういう大鳥の顔は困ったようだけれど、その中に反対の色が見え隠れしている。
普段、千鶴で土方のことをからかっている大鳥としては、今の状況が楽しいのかもしれない。
そんな大鳥の感情はまったく知らない島田は、どこか達観したような表情をしている。

「大丈夫だと思いますよ、二人は。雪村君も土方さんのことよくわかっていますから。
今の状況は今の状況であの二人にとっては大きな進歩ですよ。」

まだ浪士組といわれた時代に新選組に入り、鬼の副長としてまとめあげてきた土方と、
新選組の秘密に触れてしまい、
新選組が探していた重要人物の娘であったことから保護された頃の千鶴、
そして、時代が流れ北へ北へ転戦し、少しずつ二人の間が変わり始めていくのを
ずっと見てきた島田の言葉にはいろいろな想いがこもっていた。

「俺は土方さんが雪村君を離すとは思ってませんから。」
「僕もそれは思うよ。
だけど、二人見てると早くくっついちゃえばいいのにっていつも思っちゃうんだよね。」

冗談が本気かわからない大鳥の言葉に、島田もつい笑ってしまう。

「そうですね。
土方さんも雪村君も色々辛い思いをしたり苦労したりしてきましたから、
二人幸せになってほしいです。」
「二人が本当の意味で落ち着いて想いを伝えられる日が来るまで、
僕らは見守るしかないんだろうね。」
「これから始まる戦いを二人生き抜いてもらえるように、頑張りましょう、大鳥さん。」

力の入った島田の笑顔に、大鳥もいつのものにこやかな笑顔を取り戻す。

「ということは当分は土方君がからかえるんだね。」

まるで新しいおもちゃを手にした子供のような大鳥の言い方に、
土方を思うとなんとも言えない島田なのだった。
出かけ際の土方の表情を思い出し、島田は、鬼のように目を吊り上げているより、
愛する人に向ける柔らかな表情の方が土方によく似合うと思った。
今はまだ戦が始まらない穏やかな時間が流れている。

「せめて今は穏やかな二人の時間を過ごしてほしいです。」

真剣な島田の言葉に、大鳥もからかいの色を潜めた。

「そうだね。」


どうか戦いの日々が終わり、
本当の意味で落ち着いた安らげる日々が二人に訪れますように。
大鳥と島田はそう願わずにいられなかった。







お題:明日の約束 タイトルをお題サイト「4m.a」様よりお借りしました。





2323hitハル様より
「函館舞台で島田&大鳥さんが土千を語る」土千の出演はお任せ

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ご期待に応えられたでしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
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