「歳三さん、お茶をお入れしました。」
「おう、ありがとな。」

文机に屯所時代よろしく向き合っていた土方が、千鶴の声に筆を置いた。
千鶴から湯飲みを受け取ってお茶を啜る。
千鶴も土方の横で同じようにお茶を飲んでいた。
千鶴をちらっと見ると、土方はなんの前触れもなく言った。

「おまえに恋文を書いてみたんだが。」

土方の言葉にきょとんとして、それから

「ええっ?!」

と声を上げたかと思うと、手にした湯飲みそのままに固まってしまう。

「なんだよ、そんなに緊張するこたあないだろ。」
「む、無理です!」

そんな千鶴に小さく土方が笑うと、千鶴はぶんぶんと首を振った。
早くもその頬が微かに朱に染まり始めているようにも見える。

「ほら読んでみろ。」
「えっあ、あの、はいっ。」

土方は机の上からそれまで書いてたのであろう文を取り、千鶴に差し出した。
千鶴が湯飲みを置き、それを受け取ったのを確認すると

「俺がいると読みにくいだろうからな。」

と、土方はまだ飲みかけだった湯飲みを持って、千鶴の返事を待たずに腰をあげた。
千鶴は、縁側へと消える土方の姿を追うと、渡された文を読み始めた。
カサリとそれを開けば、見慣れた土方の文字が並ぶ。

【拝啓、千鶴様】と始まる文は、
自分に宛てたものだというだけで、見慣れた筈なのに見慣れないもののように思えた。
あの月光輝く冬の日の出逢いから、今に到るまで、そしてこれからのこと。
千鶴が知る由もなかった土方の心の本音が、土方らしい飾らない優しい言葉で綴られている。

ふと視界が滲んで、
涙が溢れたことに気が付いた千鶴は、手にした土方からの文を少しずらした。
ポロリと雫が伝って、涙が落ちた。
文に涙が落ちなかったことに安堵して、続きを読む。
最後、その一文に千鶴の視線が止まった。

【……がらにもねえ言葉だが、書いておく。愛してるよ、千鶴。】

頬に広がる朱の色と共に、再び涙が千鶴の頬をこぼれ落ちた。
けれど、そのあとに書かれた言葉に、千鶴はクスクスと可愛らしい笑い声を立てた。

「…そんなこと出来ません。」

千鶴が、土方からの文を大事そうに胸に抱えた時、
まるでタイミングを計ったように土方が戻ってきた。
そろそろ読み終えた頃だろうと思った土方は、
千鶴が大事そうに文を持っていることに気づくと、眉間に皺を寄せた。

「千鶴、俺は読んだら破って捨てておけって書かなかったかったか?」

今は懐かしい詰問口調。

「そんなこと出来ません。」

凛とした表情と口調で、千鶴は土方に言い返した。
更に眉間の皺が深くなる。

「だったら俺がやる。返せ。」
「嫌です。歳三さんが私に文を認めてくれたの初めてですもん。
凄く嬉しかったんです。なのに、それを破って捨てろだなんて出来ません。」

千鶴は、戦場で土方に度々見せていた、強い意志がこもった目で土方を見上げる。
千鶴も土方もお互い譲るつもりはないようだ。
土方が文に手を伸ばせば、寸前のところで千鶴が見をこなす。
千鶴が逃げれば、土方も追い掛ける。
そんな攻防が数回繰り返された時だった。

「ぅわっ…!」
「きゃっ…!」

二人の慌てた声が同時に発せられ、ドスンという鈍い音が響いた。
直後、口付けを交わす直前のような、鼻先が触れる距離にお互いの顔があることに気付く。
土方が千鶴を押し倒し組み敷いた形になっていた。
どうやら勢い余って千鶴は後ろへ、土方は前へ倒れたようだ。

土方との距離を瞬く間に理解した千鶴の顔は、
濃い朱で頬から耳から首筋までを染め上げ、視線だけが土方から外れる。
ニヤリと土方が笑った。
千鶴はその隙に手にしていた土方からの文を、そっと袂に隠し入れた。
土方が千鶴の手から文を取り上げようとするが、当然土方の手は空を切る。

「千鶴…。それがあるとおまえ、俺がいなくなったあと引きずらねえか?」
「この文は私があなたに愛されているという証です。
それがあれば私はたぶん、生きられます。」

いつの間にか千鶴の視線は土方へと戻っていた。
ふわりと微笑んだ千鶴に、観念したように嘆息する。

「勝手にしろ。」
「ありがとうございます!」
「だが千鶴、条件がある。」

ぱあっと広がった明るい色に、苦笑とも取れる笑みをこぼしながら土方は続けた。

「俺がいるところでは読むな。」

書きたくて書いた恋文だったが、
さすがに自分の目の触れるところで読まれるとあっては、土方でも照れくさいものがある。
それもあって捨てろと書いたようなものだ。
だが、千鶴が一つ決めたら土方も驚くかたくなさと頑固さを持ち合わせ、
今みたいにそれを発揮されたら土方はとてもじゃないけど敵わないことを痛いほど知っていた。

「どうしてですか?」

土方の胸中を知らずか、千鶴が不思議そうに目を瞬く。

「あ?そんなの決まってんだろ?」

続く言葉は胸にとどめたままに、千鶴に口付けることで、
恐らくは多少赤くはなってしまっているだろう自分の顔を隠すことにした。
それが幸いしたのか、千鶴は土方の変化に気付かずに、土方からの口付けを受け止めていた。

「……んっ…。」

深くなった口付けに、千鶴の鼻にかかった甘い声がもれた。
千鶴の反応に土方は、唇を離さず器用に口の端を上げた。
千鶴の手が土方の着物を掴んでいる。

「愛してるよ、千鶴。」

文にも書かれていた言葉なのに、
実際に土方の声で囁かれたその言葉は確かな熱を持ち、千鶴を震わせた。

「……もです。」

途切れて聞こえた千鶴の声に、土方は顔を上げて千鶴を見つめた。

「ん?」
「私もです、歳三さん。」

潤んだ瞳のまま告げられた言葉に、土方は幸せそうに柔らかな笑顔を浮かべた。
こつんと額と額をあわせると、千鶴がはにかんで土方を見上げた。

「また恋文書いてくださいね。」
「ああ、また書いてやるよ。」

優しく答えた土方は誘われるように、珍しく願いを強請ったその唇に自分の唇を寄せた。






2500hit初音様より
「ラブラブで」

この度はリクエストありがとうございました!
ご期待に応えられたえしょうか…。なんかすいません!ありがとうございました。
うまくラブラブが表現できてるといいな
オトモバで配信されているメールの着ボイスと、随想録の土方さんの手紙から書いてみました。
多分と言うかかなりの確率でこの後千鶴ちゃんは土方さんに文字通り愛されちゃってますよね(笑)
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、サイトに来ていただけたらと思います。