千尋を守り育てた、あの橿原で、よく言われていた。
そういえば、流れ星を見つける度、
千尋と千尋に付き合わされた那岐とよくお願いをしてたっけ。
千尋の願いはいつだって同じだった。
そして、俺の願いもいつも同じだった。
「風早、こんなところにいたんだ。」
「千尋。探しましたか?」
「ううん、大丈夫。」
天鳥船の堅庭。
千尋が自然と俺の横に並ぶ。
まだ戦いは終わっていないけれど、
こんな穏やかな時間があるのは、きっと千尋がいるからだろうな。
今も天鳥船は次の土地へと向かっているから、
忍人あたりに聞かれたら怒られてしまいそうだ。
「気持ちいい風ね。」
千尋が、風を感じようと深呼吸する。
幼い頃から変わらない仕種に、自然と笑顔になってしまう。
「そんな千尋の方が気持ちよさそうですよ。」
「えっそうかなぁ。」
「はい。千尋、空は見ましたか?今日は特に星が綺麗に見えますよ。」
ほら、と夜空を指差して促すと千尋が空を見上げる。
「本当だわ。」
にこやかな笑みを浮かべた千尋が俺の方を見た。
戦いが続く今では、千尋にとってはいい休息になったらいいと、
俺はまた、忍人がいたら怒られそうなことを思っていた。
「あ、風早!流れ星!」
はしゃいだ千尋が俺の袖を引いて教えてくれた。
まだ橿原に居た頃、千尋は何度もそうやって俺に流れ星を教えてくれていた。
中つ国の王として、戦の先頭に立つ今も、千尋は千尋のままだった。
「お願いしなくてもいいですか?」
流れ星に三回願いを唱えると、その願いは叶うという。
流れ星を見つけては、願いを唱えていた千尋は、そんな素振りを見せない。
だからそう聞いたのだけど、千尋はにっこりと笑うだけ。
「しなくてもいいわ。だって風早はこれからもずっと一緒にいてくれるんでしょ?
昔からずっと私の願いは同じなの。」
――ずっと一緒にいられますように
「そうですね、俺はずっと千尋の傍にいますよ。ねえ千尋。」
「なに?風早。」
「俺の願いを知っていますか?」
――ずっと傍にいられますように
「ううん、知らないわ。聞いてもいいの?」
「ええ、いいですよ。千尋と同じです。」
千尋が嬉しそうに笑った。
「じゃあ私は風早のお願いを叶えてるんだね。」
「はい、だから千尋のお願いは俺が叶えます。」
戦がどうなろうとも、千尋がいる限り俺は千尋の傍にいるつもりだった。
千尋の傍を離れるつもりはない。
「俺の姫ですから。」
千尋は可愛らしく顔を赤くして、慌てて俺から目を逸らした。
「可愛いですね、俺の姫は。」
流れ星がまた一つ、俺達の前を流れていった。
大空を飛ぶ天鳥船の堅庭は空に近く、満点の星空が輝いている。
千尋の願いはずっと同じだった。
俺の願いもずっと同じだった。
幾つ時が巡っても、こうして千尋と見れたらいいとそんなことを思う。
神に仕える身として、間違っているのかもしれないけれど。
何かを願う気持ちは変わらないのかもしれない。