それは、遠い過去の記憶。
けれど、鮮明に残る記憶。
そして、大切な大切な記憶。



別れたのは100年以上も前。
彼を探し続けた。あの日からずっと。
長い月日の末、再会したのは桜が散り始めた高校の入学式。
一目見てわかった。それは彼も同じだった。彼は学園の先生だった。
自然と私達は恋をし合って、あの時のようにお互いの想いを確かめ合って、結ばれて。
それから迎えた初めての満開の桜の季節。

「千鶴、桜を見に行くぞ。」

彼のそんな一言から、私達はここに来ていた。
先生の車で1時間位走らせて、少し離れた街に来た。
これなら先生と生徒である私達が誰にも見付からずに二人でいられる。
それに、ここは穴場と呼ばれる場所なのか、私達しかいなかった。
桜の木々が満開の花をつけ、時折重いのか揺れては花片を落とす。
それはまるで桜の苑のようで……懐かしい。

「嬉しそうだな、千鶴。」
「そうですか?」
「さっきから顔が笑ってる。そんなに桜の花が好きか?」

土方先生に改めてそういわれると、少し恥ずかしくなってしまうけれど、
自分でも顔が綻でいるかもしれない、そんな自覚はあった。

「はい。だって、桜はやっぱり土方先生に似ています。」

転生して再び出逢って、でも何も変わらない、まるであの日の延長にいるかのような。

「そうだな。俺も好きだよ。やっぱりおまえに似合うからな。」

いつの日か交わしたことのある言葉達。
タイムスリップしたかのように、懐かしい情景が蘇る。
二人、思わず顔を見合わせて笑い合った。

「俺達、何も変わってねえな。」
「なんだかずっと、続いてるみたいです。」
「やっぱ俺にはおまえが似合うってことだな。」

柔らかな表情でさらりと言われた、土方先生の言葉に顔が赤くなるのを感じた。
100年以上経とうと、過去にどれだけ
土方先生の想いが込められた一つ一つをもらっていても、やっぱり慣れなくて。

「そうだと、とても嬉しいです。」
「泣き虫なのも変わんねえな。」

先生の言葉と、先生の手が頬に触れたことで、自分が泣いていることを知る。
すっと先生が涙を拭う。

「すいません、また迷惑かけてしまって…。」

小さく謝罪すると、先生は目を細めて笑う。
そこに沢山の愛情を感じたのは、きっと間違いじゃない。

「構うもんか。おまえは、俺のものだろう?」

またこの言葉を、満開の桜の下で、
あの日と同じ思いやりの込められた声音で告げられた。

「昔も…今も、これからも。」
「それなら、土方先生は私のものですね?」

あの日からずっと永久に。

「当たり前だ。本当、今もおまえに敵わねえとはな。」

明日をも知れぬ寿命に怯えたのは昔の話。
今はその心配もないから。
桜の花咲く季節がくるたび思い出すのだろうと思っていた、
初めて二人で桜を見て、微笑みあった春。
時は巡り、100年以上の時を経て出逢ってまだ1年。
これからは桜の花咲く季節が来るたび思い出を積み重ねていくのだろう。
それでも魂に刻まれた傷なのか、ほんの少し切ない痛みがした気がした。
今私達は始まったばかり。
函館の五稜郭の裏、あの桜の日の二人のように。

「千鶴。」

そっと名前を呼ばれた。

「おまえが卒業したら、函館の桜を見に旅行するか。」
「いいんですか?」
「じゃなきゃ誘わねえよ。」

いつかあの桜を二人で見れたらどんなに幸せだろう。
そう思うだけで満たされる。

「先生とまた行きたいです。」

笑って答えると、先生の瞳が優しく揺れる。
その春のような微笑に、改めて思った。

「土方先生とまた一緒に桜が見れて幸せです。」
「俺もだよ、千鶴。」

先生の腕が私の体を捕らえ、先生の方へと引き寄せられる。
はらはら舞う薄紅の花びらが降りてきて。

「綺麗ですね、先生。」
「そうだな。」

特別綺麗に見えた、桜の花。
咲いては散り、散っては咲く桜の花は、私達の全てを知っているかのようで。
あの日願った、私達が別たれることがありませんように、
その願いが叶っているようで嬉しかった。
どうか、これからも、その願いが叶いますよう。



それは、これからの記憶に。
だから、鮮明に残る記憶で。
そして、大切なかけがえのない記憶。

大好きな人の微笑みがそばにある幸せを永久に。
桜の記憶を刻んでゆく。






莉久様より「転生SSLで一緒に桜を見て微笑む二人」

この度は企画参加・リクエスト本当にありがとうございました!
ご期待に応えられたでしょうか…?少しでも感謝の気持ちになれば、と思います。
転生と桜、という言葉から、本編EDと重ねるようにして書かせていただきました。
実は転生モノって初だったんです!桜と二人、凄く好きな組み合わせでわくわくしました(笑)
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、サイトに来ていただけたらと思います。