体の異変を感じたのは、起床してすぐだった。
風邪をひいたわけではなさそうだし、月の障りは終わっているし、
けれど、昨日から感じていた体のだるさは残っているけどそれとは違う何か。
よく眠れたような眠れてないような。
まだ函館に来て間もない。
慣れない環境のせいだろうと、寝着から洋装に着替え、髪を結い上げようと鏡を見た時だった。

「きゃっ!」

映し出された自分の姿に驚いて鏡を落としてしまった。
今、私が見たものは…何?
まさか、もしかして。
恐る恐る額に手を持っていけば、触れる尖ったもの。
もう一度鏡を見てみる。
これが夢であればいいと、見間違いであればいと思って見たけど、
映っていたのは間違いなく白髪金目で、額に角が生えた姿。
この姿には自分のものではないが見覚えがある。
風間さんが、本来の鬼の姿で土方さんと戦った時に見せたものだ。
つまり。鬼の姿になっているということ。

「どうしよう…。」

一体どうしてこうなってしまったのだろう?
昨日寝るまで普通の、変わりない姿だったのに。
それに、このままでは部屋の外には出ることが出来ない。
一目に人間でない異形のものだとわかる姿だ。
ううん、それ以前に土方さんに見せたくない。
嫌われたくないもの。
今日は体調悪いことにして休んでしまう。
そうすれば扉越しでの会話で済む筈だと結論付けて、
どうしたら元の姿に戻れるかそれを考えることにした。
けれど、私の考えは色んな意味で甘かったのだとすぐに知ることになる。


「千鶴、千鶴。」

寝台に潜り込んで少しうつらうつらしていたら、扉をノックする音と私を呼ぶ声がする。
勿論、土方さんだ。
時計を見れば、いつもなら土方さんの部屋にいる時間だ。

「はい。」
「なんだ、いるなら返事しやがれ。入るぞ。」

さすがにこれにはびっくりしてしまった。
土方さんもまさか部屋の中に入ってくるなんて思わなかった。
だって、仮にもってううん、そうじゃなくて!
女性の部屋だよ?
それに今入ってきてもらっては本当に困るんです…!

「だ、ダメです!入らないで下さい!」

慌てて大きい声で叫んでみたけど、もう時既に遅し。
言い終わらないうちに土方さんは、部屋の扉を開けて部屋に入っていた。
扉が閉まる音。
同時、土方さんが驚いたように息を呑む気配。
それから、一瞬の静寂。
慌てた私は寝台から身を乗り出していた。

「あ、悪い…。」

ややあって聞こえた言葉は謝罪の言葉。
けれど、土方さんの菫色の瞳には、私の鬼となった姿をしっかりと映している。
ああどうしよう、見られてしまった。
一番見せたくないと思っていた人に。

「あ、あの…。」
「千鶴、どうした。」

何か言わなければと口を開いたのに、土方さんに先を越されてしまった。
嫌われるのでは、そう思ってしまうと、怖くて仕方がなくて、上手く言葉に出来ない。

「それが、その…起きたらこうなってて…だから…。」

土方さんは、コツコツと革靴を鳴らし、寝台に近付いてくる。
徐に手が伸ばされて、思わずビクっと肩が震えてしまう。
ぐっと構えたのに、次に感じたのはいつもと同じかそれ以上に
優しく髪を梳き頬に触れる、土方さんの掌だった。

「え…?」

どうしたのだろうと、おそるおそる土方さんを見上げれば、
心配そうな色を隠す柔らかな表情をしていた。

「何を怯えている?」
「だって…。」
「鬼の姿を俺に見せたくなかったのか?おまえのことだから嫌われるとでも思ったんだろ。」
「う…。」

土方さんには何でもお見通しなのか、あっさり言い当てられてしまって、返す言葉もない。

「まぁ確かに最初おまえのその姿を見た時には驚いたがな。」

ギシっと音がして、土方さんが寝台の端に腰掛けたのがわかった。
触れていた手は、そのまま頬を滑り、頤に触れ、俯きかけていた顔を土方さんの方へと戻される。

「残念だったな、嫌うどころか俺にとってはそんな姿でさえ、綺麗だと思っちまうんだ。」
「…っ!」

告げられた言葉は、とても予想出来たものなんかじゃなくて。
まさかそんな言葉を言われるなんて思っても見なくて。
顔が熱くなっていく。

「だから驚いたというより、見惚れたと言った方が正解か?」

嫌われるんじゃないか、その不安は杞憂に思ったけど、
楽しそうに笑いながら紡がれる土方さんからの言葉に、私はただ気恥ずかしさに照れることしか出来ない。

「まったくおまえはいらぬ心配をして…。部屋から出なかったのは正解だな。でもまた、どうして急に。」

当然の疑問だけど、私にも実のところよくわからない。
思い当たることはあるけど、果たしてそれが原因なのか自信はなかった。

「もしかすると、ですけど……昨日寝る前に体がだるいなとは思ってたんです。
 体調が悪いってわけじゃないんですけど、なんか体が重くて。
 寝れば治ると思って寝たんですけど、朝起きても取れてなくて、挙句にこの姿になってたんです。」

思ったままを話すと、そうかと短く答えただけ土方さんは、少し考えたようだ。

「鬼の姿になったってことは、それだけ知らず知らずに体が疲れて休みたかったってことじゃねえのか?
 こっちにきたばっかだしな。せっかくだ、千鶴、今日は一日ゆっくり休め。食事も持ってきてやるよ。」
「え、でも」
「俺に迷惑だとか考えんじゃねえぞ。
 こんなの迷惑でもなんでもねえし、他のやつらに見せるわけにもいかねえだろ。素直に甘えとけ。」

確かに土方さんの言う通り、私はこのままの姿では外においそれと出れるわけじゃない。
ポン…と大きな手が頭に乗る。
あんまりにもそれが優しいから、つられるように私は素直に笑ってはいと頷いた。

「ありがとうございます。」
「とりあえず朝飯まだだろ?持ってくるから待ってろ。」
「はい、すいません。」
「いいって気にすんな。」

土方さんはそう笑うと、朝食を取りに行く為だろうかゆっくりと腰を上げて、扉の方へと歩いていった。
一度扉を開けたかと思えば、何かまだあったのだろうか、開けた扉を閉めてこちらを向く。

「どうかしましたか?」
「いや、鬼の姿をしているとなんだかこう、襲いたくなるな。」

口の端をニヤっとあげる笑い方をした。

「どういう意味ですか?」

言われた意味がわからず聞き返すと、いつの間に近付いてきたのか土方さんの顔が近くにあった。

「色気あるよな、いつも以上に。」

囁かれて、柔らかいものが重なって離れていった。
じゃすぐ戻ると、何事もなかったかのように部屋を出て行ってしまった。
思わず、強張った体の力が抜けた時、言われた言葉の意味を理解して全身が熱くなってしまった。
これはこれでよかった…のかな?
誰もいないにもかかわらず、いたたまれないような気恥ずかしさを感じて、とりあえず寝台に潜り込む。
なにはともあれ、嫌われなくてよかったと安堵したら急に眠くなって、そろそろと瞼を下ろすことにした。






若葉様より「土方さんが千鶴の鬼の姿を見て驚くというようなもの、時期はどこでも」

この度は企画参加・リクエスト・お祝いのお言葉本当にありがとうございました!
ご期待に応えられたでしょうか…?少しでも感謝の気持ちになれば、と思います。
時期はどこでも、とありましたので、函館にきたばかりの頃の設定でかかせていただきました。
こんなお話になってすいません。駄文でよろしければお持ち帰りいただけたら幸いです。
感想や苦情いただけたらと思います。というか、書き直しいつでも受けますのでおしゃってください!
また、お暇なときにでも、サイトに来ていただけたらと思います。