生憎、梅雨空の広がることが多い季節。
一年に一度、織姫様と彦星様が天の川で逢瀬を果たす七夕の日。
揺れる笹に飾り、願い事を書いた短冊を吊るす。
そんな日が今年もやってきた。

「雨ですねー…。」

土方に後ろから抱きかかえられて千鶴は空を睨む。
毎年、梅雨最中ということもあって晴れることはほどんどない。
それでも、今年こそはと思ってしまうもの。

「仕方ねえじゃねえか。」

千鶴の頭を一撫でして抱き寄せる。

「そうですけど…。見たかったなぁ。」

少し身動ぎした千鶴は、そっと土方の腕の中に体を預ける。
二人がいる場所から見える夜景は、見えない雨音で彩られていた。
静かに抜ける空間。

「ところで千鶴。」

話題を変えようと土方が呼ぶ。

「お前学校の七夕飾り、短冊に何を書いたんだ?」

千鶴が通い、土方が教鞭をとる薄桜学園でも笹飾りがあった。
千鶴は勿論、土方も短冊に願い事を書いた。

「大したこと書いてないですよ。無事卒業できますようにって。」
「ありきたりじゃねえか。」
「いけませんか?」

ぷくっとむくれていじける様に、土方も目を細める。

「そういう先生はどうなんですか?」
「俺?俺は全員卒業できますように、だな。」
「似たようなものじゃないですか。」
「総司や風間や問題児ばかりじゃねえか。」
「それもそうですね。」

おかしそうに千鶴が小さく笑った。

「だろ?」

困ったように眉間に皺を寄せる土方。
二人は同じ学校に通う生徒と先生でありがなら恋人同士だった。
ひっそりと人目を盗むように、こうして土方の部屋で逢うことが多かった。
普段は、さして周囲と変わらない生徒と先生を演じている。
二人の時間を満喫出来るのは、週末や放課後の僅かな時間という限られた時間。
一年に一度の逢瀬をする織姫様と彦星様と似ているような似ていないような。
願い事も学校では書けない願い事がある。

「にしても千鶴、本当は書きたかった願い事があるんじゃねえのか?」

緩やかに口の端が弧を描き、悪戯に千鶴に聞いた。
途端に土方から目を逸らす千鶴。
本当の願い事は心の中の短冊にだけ書いた。

「俺にも、書けなかった願い事があるぞ。」

優しい声音が響いた。
土方もまた、心の中の短冊にだけ書いた。

「どんな願い事ですか?」
「先に聞いたのは俺だぜ?」
「…土方先生とずっと一緒にいられますように。」

気恥ずかしそうに小さな声が願い事を唱えた。
頬が照れか仄かに赤くなっている。
土方はぎゅっとさらに距離を縮めて言った。

「千鶴とずっと一緒にいられますように。俺も同じだ。」

直接聞こえた低音に、思わず千鶴の体が震えた。
頤に触れた指が、土方の方へと千鶴の顔を向ける。
思ってた以上の近い距離に、耳まで千鶴は赤くなった。
自然となくなる距離。

「来年の七夕は笹飾りするか?うちで。」
「はい!」

少し離れただけの距離。
土方の提案に千鶴は嬉しそうに笑った。
釣られて土方も柔らかく笑う。
もう一度キスをした。