「千鶴、茶を頼む。」

気が付けば、お茶を入れるのは私の仕事になっていた。
屯所に保護されて、漸くそれなりにやることを与えてもらって、
ある程度の行き来は許されるようになってきた。
最近では、こうして土方さんにお茶を頼まれることも増えてきたし、
私も自分でお茶を入れて持っていくようになってきた。
そのおかげか、土方さんに対する印象は変わってきて。
怖い人、厳しい人だと思っていたけれど、本当は優しい人なんだと思う。

「土方さん、雪村です。お茶をお持ちしました。」

手早くお茶を入れた私は、障子越しに中にいる土方さんに声を掛ける。
少し熱めの少し濃い目のお茶。
これは土方さんが好きなお茶の入れ方。
何度も何度も入れてるうち、自然と好みがわかってきた。

「入れ。」
「失礼します。」

今ではすっかり聞き慣れた返事に、いつものように入室する。
やっぱり寸分違わず文机と向き合っている土方さんの姿。

「悪いな。」

どうぞとお茶を置けば、これまた短く労いの言葉をかけられた。

「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから。」

土方さんが、湯のみを手にお茶を飲む。
その瞬間だけ眉間の皺が緩んだような気がしたのは、私の気のせいかな。

「そんなことはねえだろ。うちにはろくに茶も入れられねえやつもいるからな。
 うまい茶が飲めるのはありがてえもんだ。」

え?
思いがけない言葉に、私の思考はいったん停止する。
うまい茶、その一言が凄く嬉しい。
土方さんに褒めてもらえた、ただそれだけなのに。

「おまえの茶はうまいな。」

いつの間にこちらを向いていたのだろう?
そこにある土方さんの表情はそれはとても――

「…!あ、ありがとうございます!!」

それが精一杯。
空いた湯飲みを差し出されて

「もう一杯頼めるか?」

そう頼まれた。

「はい!すぐお持ちします!」

落とさないようにその湯飲みを受け取る。
自分の手が少し震えていたように思えたけど、土方さんに気付かれてはいないだろうか。

「失礼しました!」

逃げ出すように土方さんの部屋を退室すると途端に、
心臓のドキドキ倍くらいは早いんじゃないかってお思える鼓動や、
かぁっと熱を持った頬とかが手に取るようにわかった。
あんな風に微笑うんだ…。
あまりにも綺麗に、微笑って、とても優しい眼差しで。
初めて見た土方さんの笑顔は、当分の間私の脳裏からは離れてくれそうもない。

「早くお茶入れなきゃ。」

思わず止まっていた足を、急いで勝手場に向かわせた。
またあんな笑顔が見れたらいいな。





お題サイト「雪華」様より「優しい微笑みが離れない」