浮上した意識に、煌々と照らす月明かりに、自然と目が覚めたの夜もだいぶ更けた頃。
常より明るい部屋の様子に、寝る前に見た月が満月だったことを思い出した。

目の前にはすやすやと眠る千鶴の無防備な寝顔。
月の光が、その綺麗さをより一層引き立てているようにも見えて、
いつこれだけの女になったのだろうと思う。
保護した時は餓鬼だった。
函館に俺を追いかけていた時には、すでに一端の女になっていた。
それから――。

顔にかかる髪をそっとよけてやる。
函館に来てから俺はこいつには素直に接するようになった気がする。
一人の女として甘やかせば、それはそれは、女の色を知らずと垣間見せた。
共に夫婦として暮らすようになってからは、
本当の意味で女を知り、男を知ってからは更に磨きがかかった。

色恋事には初心な恥じらいと照れた様を見せる。
俺が羅刹として歩んだ運命を受け入れ、だから不安だと涙をこぼす弱さ。
戦場についてまわり、海一つ越えた北の大地まで追いかけてきて、
死しかないような男の傍にいたいと告げた凛とした強さ。
時には、俺さえ驚く強さを見せる。
けれど今、目の前にはスースーと小さく寝息を立てて眠る愛らしい姿。

頬に触れた手で、どこか幼さの残る輪郭をなぞる。
幸せだと思うこの瞬間。
千鶴にはただただ愛しさとか愛らしさとか、こいつを愛おしく想う気持ちが溢れてくる。

「千鶴。」

瞼にそっと唇を寄せれば、少し身動ぎした。
ふっ…と零れた笑みに、ああ俺はどうも千鶴にしっかりと捕まってるんだと改めて思う。
華奢な体を自分の方に引き寄せれば、無意識にも関わらず、
甘えるように擦り寄る仕草はあまりにも可愛らしい。
心の奥から落ち着く存在に、もう一度意識を手放した。





お題サイト「雪華」様より「月明かり。眠る君。」