昨日までは夏の陽射しにも似た暖かな陽射しが指していたというのに、
雨に加え、季節外れのひんやりとした空気が肌寒さが支配していた。
「今日はよく降りますね。」
締め切った障子越しにどんより曇った空が見える。
「その癖冷えやがる。花冷えとはよくいったものだ。」
土方は千鶴が小さく身震いしたのを見逃さなかった。
「千鶴、こっち来い。」
土方はそう千鶴を招くが、元より寄り添う距離にいる。
これ以上何をどうしろというのか、千鶴は小首を傾げた。
そうすると土方は、無言のまま千鶴の手を取ると、自分の方へと引っ張った。
「へっ…?!ちょっ…と、歳三さん何を…!」
千鶴が落ち着いた先は、胡坐をかく土方の足の上。
あわあわ慌てるように顔を赤くした千鶴が、どうに逃れようと手足を動かすが、
しっかり土方に捕まっているようでびくともしない。
「おまえがなかなか来ようとしないのが悪い。」
「重いですから!」
「そんなこと心配してたのか。重かったらこんなことしてねえよ。」
千鶴の頬が仄かに赤い。
「千鶴。」
直接耳に甘く囁けば、千鶴が体を強張らせた後、力を抜いて体を預けた。
「……。」
「どうした。」
「なんでもありません。」
千鶴の体を抱く力を強くして、首筋に顔を埋めた。
「こうしてりゃあったかいだろ。寒かったんだろ?」
「なんでわかるんですか?」
「それだけおまえを見てるからな。」
土方が何かを言う度、息が千鶴の首筋にかかってくすぐったい。
だからって身じろぎすれば、益々腕の力が強くなる。
「えと……でも、このままじゃ何も出来ません…。」
「どうせ今日は雨なんだ。こうしてるのもいいだろ。それとも」
土方の手によって、千鶴は顔の向きを変えられる。
まるで口付けをしてるかのように至近距離にある土方の顔に、
千鶴の鼓動が大きく跳ねた。
熱っぽさと艶っぽさとを込めた視線に千鶴は捕われる。
「直接あっためてやってもいいんだが?雨音を聞きながらってのもいいな。」
わざと掠れさせたような甘い声に、千鶴はそこに込められた言葉の意味を知る。
瞬きの間に耳まで赤くなった。
「っ?!えええ遠慮します!このままでいいです!」
「それは残念だ。」
言葉通り残念そうな表情をする土方と、これでもかと顔を赤くした千鶴。
そっと唇は重なって、離れていった。
「もう…。」
小さく口にして、千鶴は土方の胸に顔を埋めた。
土方はそんな千鶴を優しく笑って見つめていた。
雨は二人を包むようにしとしと降り続く。