暖かな光り射す縁側で繕いものをする千鶴の姿があった。
土方は、そんな後ろ姿を見つけると悪戯心が湧いて、
かつてのようにそっと気配を消して近付くと

「千鶴。」

甘さを含めた声で名を呼んで、ふわりと後ろから抱き込んだ。

「わっ!!」

飛び切り驚いた声に、土方の口から自然と笑いが漏れる。

「歳三さん!驚かさないで下さい。」

口を尖らせ小さく抗議する千鶴の頬は微かに朱が挿しているように見えた。
千鶴は、手にしていた針を針山へと戻す。

「危ないところだったんですよ。」

千鶴のうなじに顔を埋めていた土方は、
その声に慌てたように顔をあげ、千鶴の横から顔を出す。
捕らえていた己の手で、千鶴のをそっと撫でる。

「もしかして刺したか?」

近くなった土方の顔に、千鶴の頬の朱が増した。

「あっいえ…私は大丈夫です。」
「そうか。」

土方は安堵の声を漏らした。
しかし、千鶴は相変わらず頬を染めながら、口を尖らせている。

「今は歳三さんの手に刺さりそうだったんです。」
「千鶴が怪我しなけりゃそれでいいんだよ。」
「私は歳三さんが怪我するのがいやなんです。」

千鶴はすぐ横にある土方の顔を見ることが出来ず、俯いたままだ。
今や真っ赤になっている千鶴が、抗議の声をあげたところで、
土方に可愛い、という愛おしさを抱かせる以外効果はなくなっていた。

「俺は千鶴が怪我すんの見たくねえな。」
「わ、私はいいんです。鬼ですからすぐに治りますし。
歳三さんはもう羅刹の力ないじゃないですか。」
「そんなの関係ねえ。惚れた女に怪我させてえんだ。」
「私だって愛する男の人に怪我してほしくありません。」

そして、少しの沈黙。
次の瞬間には、どちらからともなく笑い出していた。
抜けるような青空に二人の笑い声が響く。

「引き分け、だな。」
「ですね。」

土方は、楽しそうにでも呆れたように笑顔を浮かべ、
千鶴は、まだ頬を朱に染めながらもやっぱり綺麗な笑顔を浮かべている。

「針が刺さる刺さらないってだけなのになんだか大袈裟ですよね。」

今度はどこか可笑しそうに千鶴が言った。
それを聞いた土方は、左手を千鶴の手から頤へと変え、自分の方へ顔を向けさせる。

「っ!」

触れるか触れないか、そんな距離にある土方の顔に、
千鶴はおさまり始めていた頬がまた熱を帯びたのを感じた。
そっと目だけ俯かせるが、耳まで朱に染まっていた。

「…それだけ大切に思ってる、っことだろう?」

囁くように熱くけれど慈しむように紡ぐ土方の声に、千鶴は視線を上げた。
土方の目に宿る想いに、

「…はい。」

小さく、でもはっきりとふわりと微笑んだ。
二人の口唇が触れた時、爽やかな風が通り過ぎた。