「おはようございます、歳三さん」

それは変わらない挨拶。
勝手から聞こえるのは、心地よく響く包丁の音。
その手を止めて、

「千鶴、おはよう。」

と、挨拶した俺に、千鶴は笑顔で振り返った。

「もうすぐで出来るので、ちょっと待っててください。」
「ああ。」

返事をすると、手元へ視線を戻し、またトントントン…と音がする。
何気ない朝の風景。
それでも、いつこの寿命を終えてしまうかもしれない、
そんな状況だからか、何気ないものが凄く愛おしく思えた。
ふと、千鶴の手が止まる。

「あの…。」

千鶴は少し恥ずかしそうに切り出した。

「ずっと見られては…。」

俺の方に顔を向けることなく言ったが、
見える横顔が少し朱に染まっているのがわかった。

「別に減るもんじゃないだろう。」
「や、やりにくいです…。」

こんな会話すら愛おしい。
そう思ってしまう俺は、どうもこいつに捕まっちまったみたいだ。
今日は大人しくひいてやるか。

「それは悪かったな。綺麗だな、と思ったら、つい。」

そう言い残して居間に戻る。
きっと今頃耳まで朱に染めていることだろう。
やや間が空いて、いつもの日常の音がする。
いつもと変わらない千鶴との一日が始まった。
慎ましくも幸せな一日が。

――今日も今この瞬間から貴方との時間を重ねよう





お題サイト「igt」様 カレイドスコープ 内お題をお借りしました。