「あの、土方さん。」
「なんだ?」

千鶴はまだ土方の腕の中にいた。
一度は突き放され、それでも土方を追いかけてきた千鶴を、土方は受け入れた。
かなわないと思い、愛しいと想い、
自然と伸びた土方の腕は千鶴をしっかりと捕らえた。
抱きしめた千鶴を土方はなかなか離そうとしなかった。
まるでそれまで離れていた3ヶ月を埋めるかのように。

「あの…」

千鶴が言い淀んでいると、それだけで土方は千鶴の言いたいことを察したようだった。

「なんか離したくねえんだ。
てめえが手放しといて勝手なこと言ってんのはわかってる。
人の気も知らねえでと思ったが、おまえがいない間、この温もりが恋しかった。」
「土方さん…。」

土方の腕の力が緩んだ。
その顔は変わらず穏やかで、千鶴の顔を覗き込んで言った。

「千鶴、おまえがいやじゃなけりゃの話だが…」

土方が言いにくそうに言葉を切った。

「なんでしょう?」

千鶴は首を傾げた。

「今夜は一緒にいねえか?」
「え?」
「いやか?」

まさか、と千鶴が思いっきり首を振った。
離したくない、そう思っているのは千鶴も同じだった。
土方の想いに触れて、その温もりに愛しさが募った。
土方が言うように、千鶴もまた土方の温もりを恋しく思っていた。

「そうじゃなくて…。」
「ならいいだろう?別に取って食うわけじゃねえし。」
「取って食うって…?!」

一瞬にして千鶴は顔を赤く染めた。
土方はその反応におかしそうに笑うと、そっと千鶴の頬に触れた。
赤く染めた頬は当然熱を持っていた。

「真っ赤になってるぞ。」

からかう口調の土方に、千鶴は口を尖らせた。

「土方さん!からかわないで下さい!」

それは、これまで千鶴が見たことがない土方の表情だった。
千鶴は、そんな土方にどこかドキドキしていた。

「なんか土方さん、変わりましたね?」
「そうか?」

やっぱり楽しそうに土方は口角を上げたのだった。