春の日のうららかな昼下がり。

「千鶴。」

名前を呼ばれて声の方へいけば、
縁側で気持ちよさそうにし<てる歳三さんがいた。

「お茶ですか?」
「いや。」

歳三さんは首を振ると、手招きする。
隣に座ろうとすると、あっさり腰を取られて歳三さん方へと引き寄せられる。

「え?」

気付いた時には、胡坐をかく歳三さんの膝の上。

「歳三さん!」
「ん?」

みるみるうちに顔が熱くなる。
楽しげにのぞく歳三さんの目が私を見る。
恥ずかしくてその目から逸らしてしまう。

「突然どうしたんですか?!」
「こうしたかっただけだが、悪いか?」

そう言われてしまっては何も言い返せない。
だから、歳三さんに身を預けることで答えることにした。
にわかに腕の力が強まって、しっかり歳三さんに捕われる。

「あ。」

風が吹いて、どこからか桜の花びらがやってきて、
土方さんの腕の中――私のところへひらひら落ちた。

「どこから飛んできたんでしょう?」

そっと桜の花びらを拾い上げて、誰に聞くまでもなくそう口にしていた。
絹のような肌触りのよい花びら。

「あ。」

それはそのまま風にさらわれてしまった。
青い空にひらひらと舞い上がってどこかにいってしまった。

「そんな寂しい顔すんな。」

誘われるように、花びらを追っていたら歳三さんにそう言われてしまった。
自覚はなかったけど、歳三さんが言うんだから、
きっとそんな顔をしていたのかもしれない。
声につられて歳三さんを見ると、ドキッとするような優しい表情をしている。

「桜が咲いたな。今年も五稜郭に行くか。」
「そうですね。」

また今年も歳三さんと桜が見れるのが嬉しかった。
そう思うと自然と顔が綻んでしまう。

「何笑ってんだ?」
「また歳三さんと桜が見れるのが嬉しいんです。」
「俺もだ。」

甘えるようにその背に腕を回せば、これはこれでとても幸せな気持ちになる。

「今度はお弁当作りますね。」
「それは楽しみだ。」

ふっと笑った歳三さんの笑顔に、この春の日のように心がほっとあったかくなる。
まるで陽だまりのように。