遠慮がちに、そして慎重に、小さな歩幅で聞こえてくるその音は、
誰だろう千鶴のものに他ならない。
間違えるはずのないその足音は、徐々に大きくなって耳に響く。
あと5歩。
コンコン。
きっかり5歩。
足音と同じように、遠慮がちに叩かれたノック音。
「雪村です。」
想像と違わない声に、口元は今笑っているだろう。
「入れ。」
悟られないように返すと、ドアが開く音がする。
「失礼します。」
さっきまでと同じ足音が机に向かって仕事をする俺に近づいてきた。
いつだって俺の数歩後ろから聞こえてくるその足音。
部屋にやってくる時は緊張の音が混じり、
でかける時には少し嬉しそうな音が混じり、ここではもう欠かせない千鶴の音。
カツ、カツ。
大きくなった足音が、すぐ側で止まる。
「土方さん、お茶をお持ちしました。」
そう、慎重な音が混じる時には、お茶を入れてくれた時だ。
「ああ、悪いな。」
顔をあげれば、いつものようにお茶を差し出す千鶴の姿があった。
それから、時は過ぎ。
その足音は、革靴から草履の足音へと変わった。
かつての、高く響く足音を懐かしく思うこともあるが、
遠慮がちで、小さなその足音がすぐ側ですることがこんなにも嬉しいとは。
ざっ、ざっと足音がする。
玄関に迎えに出ると、買い物から戻った千鶴が驚いた表情をしていた。
「足音がしたからな。おかえり。」
「ただいま戻りました、歳三さん。」
荷物を持ってやり、二人で家の中へと入っていく。
今は二人の足音が重なって響く。
それを愛しく感じてしまう俺は、今がとても幸せなんだと思う。
お題「靴音にまで愛を感じる」
お題サイト「4m.a」様よりお借りしました。