ここは京都。
かつては京と呼ばれたその頃とまだ大して変わらないが、
それでも街の端々に新しい時代を垣間見ることが出来る。
そんな街中に、周りの景色にも一切溶け込まない、ようは浮いた男が約一名。
他に二人、見た目からもまるでと統一感のない男がいるが、
その二人をも圧倒する摩訶不思議な雰囲気を醸し出している。
そんな三人を道行く人は、触らぬ神に祟りなしと
いわんばかりに避けて歩くが、本人達一切気にしてないようだ。
他を圧倒する男の名は、風間といった。
長髪の男は不知火、赤髪の男は天霧という。
風間はどこか傍目にはわかりにくいが、嬉しそうな様子。
それもその筈、気高き鬼の血筋の末裔・千姫を迎えに来たのだ。
「で、風間。俺らはいつまでこうして京の街を歩かなきゃならないんだ?
迎えに行くんならちゃんと調べとけよ。」
うんざりと疲れた表情で言ったのは不知火。
無理もない。
京都に来て二日目。
やれ京都に迎えに来たといっても、肝心の千姫の居所を風間は知らなかったのである。
「不知火、仕方ありません。他は何も見えてないのですから。」
天霧も同様に疲れた表情をしていた。
ちょうどその頃、千姫は君菊と街の茶屋でお団子を頬張っていた。
風間達が来ていることとは露知らず。
「本当ここのお団子はいつ来ても美味しいわね。」
「そうですね。」
穏やかな時間は束の間。
風間ご一行に見つかったのだ。
「やっと見つけたぞ、我が妻よ。」
道路に面した座敷に下ろしていた千姫と君菊の前に突然姿を現した風間と不知火と天霧。
千姫と君菊は、さして驚いた風もなく平然としている。
「あんた達、わざわざこんなところまで来て暇ねえ。」
そう悠然と言い切った千姫だが、君菊と共に風間の姿に目を見開いた。
上から下、下から上へと風間を見た後、風間に発した鋭い一言は、
風間の顔を綺麗に歪まされることに成功したのだ。
「何その着物!」
風間が来ている着物は、恐らく派手という分類にされるのだろう。
白地と黒地、二色で作られたの反物に、金の模様が全体に施されている。
とてもこのような場に着てくるような着物ではない。
それ以前に、全体的に光沢があるように見えるその着物は
風間に似合ってるような、似合ってないような。
千姫は、高貴な血筋を引く気高き鬼。
質素ながらも品のある着物を着ている千姫からすれば、当然の反応である。
ここからはまとまりのない五人の騒々しい会話を聞いていただこう。
「何とはなんだ。我が妻を迎えに行くのに相応しい着物を用意したのだ。」
「もしかして、とは思ってたけど、あなた趣味悪いんじゃない?」
「だからやめておけって言っただろう。相手は鬼の姫なんだぜ?もう少し……」
「不知火、おまえは斬られたいのか?」
「なんでそうなるんだよ。ただ正直な感想を言っただけじゃねえか。」
「不知火、馬鹿じゃないならそれ以上言わぬが得策かと。風間は本気で斬るつもりでいますから。」
「天霧とおっしゃいましたね。止めては下さらなかったのですか。」
「我々の命がなくなります。」
「あなた達には同情するわ。
第一なんでそんなキンキラな着物なのよ!もっとマシな着物があったでしょう!」
千姫は不知火と天霧にため息をつきながら同情の意を示し、風間にはビシッと指を挿して言った。
「もしかしてとは思うけど、あなたセンスないんじゃないの?」
とどめの一言。
「言わせておけば…!」
ギリっと奥歯を噛むものの、風間はそれ以上言い返せない。
「言われちまったよ。」
「風間も無様ですよね。」
同情するというより、楽しんでるようにも見える不知火と天霧。
「そんな格好で姫様と並んで歩こうだなんてよく思えましたね。
とても姫様に相応しいお方とは思えません。」
挙句君菊にまでそう言われる始末。
味方が誰も居ない風間は、
とても普段では見られない口惜しい表情で何も言えなくなっている。
一人では何も出来ないお方ですからね。
「せっかくおまえを迎えるにあたって作らせたというのに…
おまえらこの俺を侮辱しておって…!」
不機嫌この上ないといった風間の表情だ。
「わかったわ、気持ちだけはくんであげる。気持ちだけは。」
「どういう意味だ?」
「着替えてくれないかしら?」
「なんだと?」
「私の為に新しく着物を用意してくれるのはありがたいと思うわ。
でもね、私そんな格好のあなたと一緒にいたくないもの。」
「何?」
千姫は君菊に目配せして頷きあった。
「近くに馴染みの呉服屋さんがあるの。あなた達も協力して頂戴。」
派手に繰り広げたわけでもないが、さすがに目立つ一団である。
なんだなんだと集まって出来た人垣を、
なんでもないように割って歩いて千姫は君菊と共に歩き出した。
このまま置いていかれるよりはマシだと、
不承不承といった体で風間が不知火と天霧と共についてきた。
さて、結果的に千姫のペースに持っていかれた風間達ご一行様。
千姫の手により、風間はまともな着物にお召し換えされたようである。