街はバレンタインに染まり、女子も男子も浮き足立つこの日。
島原女子学園の正門では、より華やかな女子同士の会話がすぎていく。
「ね、見て。かっこいい方が正門にいるわ。」
「どこの学校かしら。」
「薄桜学園で見たことがあるわよ。」
「誰かを待ってるんじゃない?」
「ねぇねぇ、真ん中の人って確か合同学園祭で
千姫様とベストカップルに選ばれた人じゃない?」
「あ、本当だわ。じゃあ千姫様を待たれてるのね。羨ましいわ!」
そんな会話が通り過ぎる正門では、事の元凶となる三人組がいた。
ブレザーを着崩した不知火、学ランをきちっときこなした天霧、
そして白い学ランに身を包んだ風間な三人である。
この日は雪が降っていた。
傘な花が風間達の横を過ぎていく。
「なぁ風間ーー…。」
不知火が話しかけた時。
二つの影が風間達三人のところへ来た。
その人影がもっているものが目に入り、風間は思わず相好を崩す。
それを認めて厳しい声が飛んで来た
「何笑ってんのよ!大体そんなところで待ってられたら目立ってかなわないわ。」
千姫と君菊である。
「それで何か用かしら。」
「だから来たんだろう。少し付き合え。」
「いいわ。でもここじゃ目立つから場所を変えるわよ。」
「いいだろう。」
そうして五人が向かった先はいつものカフェ。
合同文化祭を終えてからというもな、珍しい風間からの
誘いで、何度かこの五人で放課後過ごすことがあった。
その時使われたのがこのカフェだった。
「で、用事というのは何かしら?」
注文した品が揃ってから千姫が切り出す。
「今日バレンタインだろう。」
ストレートすぎる回答に、その場にいる全員がため息をつく。
「風間…。」
「全く…。」
「貴方って人は…。」
揃いに揃って呆れとも取れる言葉を口にしたが、千姫だけ違った。
ため息一つこぼした後、こう言ったのだ。
「そんなことだと思ったわ。」
「姫様は気付いてらしたんですか。」
「なんとなく、ね。だって風間が考えそうなことよ?」
「もしかして昨日千鶴さんと作ってたのが、」
「そういうこと。」
遡ること一日。
昨日、千姫の自宅に千鶴が来て二人でバレンタインのチョコレートを作ってたのだ。
千姫はガトーショコラ、千鶴は甘さ控えめの生チョコ。
「千鶴ちゃんは土方先生によね。」
「うん、でも義理チョコ皆にあげようと思って。」
「千鶴ちゃんは優しいよね。」
「お千ちゃんは風間さんに?」
「そう。なかったらなかったでとやかく言いそうじゃない?
まさかあんなヤツに手作りするとは思わなかったわ。」
「ふふ、本当だね。」
話弾むキッチンに君菊が顔を出した。
「どうですか、姫様。」
「順調だから安心して。あとで味見お願いね。」
「あ、私のもお願いしますー。」
「畏まりました。」
「はい。」
つっけんどんに渡された紙袋を、さっと風間は受け取った。
中を確認して一言。
「さすが我が妻だ。」
「ふん、言ってなさい。」
早速、風間は包装を解く。
さすがにカフェ内でのこと。
慌て止めるが時既に遅し。
「ガトーショコラか。なかなか美味いじゃないか。」
頬を綻ばせて風間が言う。
「当たり前でしょ。私が作ったんですもの。」
褒められたからか、千姫も満更でもない表情をしている。
「いいなぁ、俺にもくれよ。」
不知火がガトーショコラに手を伸ばすと、あっさり風間に遮られた。
「これは私のものだ。貴様に分けるようなものではない。」
不遜な態度がまた顔を見せた。
千姫は膨れた顔をした不知火に、ごめんね、と手を合わせて謝った。
君菊が切り出す。
「今日待ってたのはバレンタインだからですか?」
「そうだ。我が妻のチョコをもらいに来た。」
「その貰える自信が凄いわね。
でも、今後校門の前で待つのはやめてくれないかしら。」
風間は千姫の提案に露骨に顔を顰めた。
「どうしてだ。」
「貴方達三人は目立つからよ。」
そうして千姫は三人の顔をゆっくり見る。
単純明快な理由。
今日も十分目立ってた。
それに今に始まったことではなかった。
「今は携帯があるんだし、どこかで待ち合わせればいいでしょう。
携帯の番号もアドレスも知ってるんでしょう?」
「ああそうだったな。」
「そうだったなじゃな――」
「ああ姫さん。」
不知火が千姫の言葉を遮った。
「こいつ、姫さんからの連絡待ってたんだ。」
「また貴方は…まぁいいわ。この際一つずつでも構わない。
条件、忘れたわけじゃないでしょう?」
「無論。我が妻の為だからな。」
「後もう一個。」
まだあるのかとまた顔を顰めた風間だったが、
「ホワイトデー、期待しているわ。」
そうビシッと言った千姫の言葉に、その顔が自信たっぷりの笑みに変わった。
「任せておけ。」
前より和んだ空気に距離の縮まりを感じる冬の日。
過ぎた季節を感じさせるように、外はハラハラ雪が舞う。
静かな空気に五人が交わす声が響いていく。
そんな千姫と風間のバレンタイン。