気付いた時、また沢山の涙が溢れ出た。
歳三さんからの愛が、優しさが、温かさが、こんなにも胸が苦しくて、
でもとてもとても幸せで、だから泣いてしまって、
でも、こんなに泣き虫だったかなと思う位、
歳三さんがくれる愛情に触れる度、その一つ一つ涙が溢れてしまう理由。
こんなにも幸せだから。
幸せで胸が一杯ででも苦しいのは、いつ終わりが来るとも知れない暮らしだから。
愛しくて愛しくてたまらない人からの愛情の終わりが怖いから。
とても儚いもののような気がして。だけど、幸せで。
沢山の人の死んでいく姿を見てきたからだろうか。
それとも、愛しい人がいつ終わりを迎えてもおかしくないからだろうか。
自分でもわからないけど、ただわかるのは、
今がとても幸せで愛しくて愛しくて<感情が溢れる代わりに涙が零れるんだ。
「千鶴。」
優しく呼んでくれる声一つに胸がいっぱいになる。
温かな腕に包まれて、また幸せに満たされて涙が零れて、
儚い幸せって本当はとても素敵な幸せなんだとわけのわからないことを思った。
「千鶴?」
「歳三さん、人の夢と書いて儚いと読むんです。
歳三さんとこうして幸せに過ごす日々が儚くてどうしようもないんです、と。
でも、儚いからこそ大切にしたくて、まるで、夢のようだから。
私にとって、夢でしたから。歳三さんと幸せに暮らすことは。」
歳三さんは黙って私の話を聞いてくれていた。
「だから、儚いって字は人の夢って書くんです。
例え、儚いものだとしても、それはとても幸せだからなんですよ。
だから、私はいつも幸せで満たされると泣いてしまうんです。」
何かを伝えたくて、でも、うまく言葉にならなくて。
「なんだか訳わからないですよね、すいません。」
一気に話した後、思わず謝っていた。
もっとちゃんと伝えられたらいいのに。
私は、いつも泣いてしまうから。
歳三さんの愛に包まれて、暮らす毎日が本当はいつ終わりが来てもおかしくないもので、
それをどこかでわかっているからか、その愛情に幸せを感じて胸の奥がキュウっと苦しくなる。
泣いてしまうくらい幸せ。
儚いものだから。夢のようなこの温かな感情を私はどう表現していいかわからない。
溢れる想いは、言葉ではなくいつだって涙に代わる。
「てことはあれか?」
黙っていた歳三さんが、何かに気付いたように言う。
「おまえの涙が俺への最大の愛情表現ってことか。」
伝わっている。
きっと、私がこの人に伝えたかったことは、何一つ落ちることなく伝わっている、そんな気がした。
「儚い、か…。」
「それだけ幸せなんです。」
歳三さんといることが。
笑って言い切ると、歳三さんは見惚れるような笑顔を湛えた。
「俺はそんなおまえがいることが幸せだよ。
儚い幸せってもん、俺ももらってるってことだろ?おまえから。
大丈夫だ、確かにいつか終わりが来るが、それでも最期笑って幸せだった言えたら、
俺らはその、儚いを体現できるってことじゃねえのか?
だって、”人の夢”、つまり、おまえの夢でもあるんだろ?」
この人は、どうしてこうも私のほしい言葉をくれるんだろう。
「おまえが俺との暮らしを夢だというんなら、俺の夢もおまえとの暮らしだ。
だから、少しでも長く、長くこうした日々を重ねていこうぜ。」
目頭が熱くなって、涙がはらはら零れていく。
困ったように、でも、どこか嬉しそうに見える表情をした歳三さんの顔が涙で霞む。
「泣いてばかりですいません。」
「本当、おまえは俺と暮らすようになったらよく泣くようになったなあ。」
そう言って、歳三さんは涙を拭ってくれた。
触れた温もりが愛しい。
この一瞬一瞬がとても、幸せ。
「泣きたいだけ泣けばいいさ。だって幸せなんだろう?」
「はい、とても幸せです。」
「おまえの気持ちはちゃんと受け止めてやるから安心しろ。」
止まらない涙を、何度も何度も歳三さんは拭ってくれる。
その手に、自分の手を重ねた。
深い深い愛情を込めた視線を受け止めた時、
同じくらい深い深い愛情の篭った口付けが降りてきた。
どうか神様、この幸せが長く長く続きますように。
この涙がかれるくらい。
泣いては歳三さんを困らせてしまうかもしれないけれど、幸せな証なんでしょうね。
――最高の愛情表現なんだろ?
歳三さんの声がこだまする。
幸せだと涙が零れる理由は、儚い幸せを私が歳三さんと共有できてるからだと、
歳三さんの口付けを受けながら思った。
互いの想いが伝わってくる。
唇が離れて、涙を拭ってもらって、また口付けを交わした。
今度は、深く、長く。
私からの想いが伝わるように。
愛した人と過ごす日々。
それだけのことが、こんなにも幸せなのだと教えてくれたのは、
紛れもなく歳三さんだった。
そんな人と一生添い遂げたいと思う。
「歳三さん。きっとまた沢山泣いてしまうかもしれないけど…」
歳三さんの背中に回した手に力が篭った。
「お傍にいさせてくださいね?」
歳三さんは柔らかく微笑んだ。
「当たり前だ。誰が手放すかってんだ。おまえは俺のものだろう?」
傍にいる限り。
私はこの人の傍で、幸せだと笑いたい。幸せだと泣きたい。
人の…私の夢かもしれない、儚いから大切な、この幸せを歳三さんと共に、紡いでいけたら、
私は何もいらないんです、歳三さん。