軽くノックをして、

「土方君、入るよ。」

いつものように声をかけたが、返事がない。

「おかしいなぁ。」

今日は外出の予定も会議の予定もない。
土方からどこかにでかけるとも聞いてない。

「土方君?」

もう一度声をかけて、彼の執務室へと入った。
そこには、予想つかなかった、とても微笑ましい光景が広がっていた。

「これはこれは。」

自然と笑みが浮かんでしまう。
執務室に誂えてあるソファで、
土方君と雪村君が互いに寄り添い、寄り掛かるようにして眠っていた。
その二人の表情といったら

「幸せそうだねえ、全く。」

羨ましいくらいだよ。君が。
試しに近くまで寄ってみるが、起きる気配はない。
こんな土方君の顔見るの初めてかもしれないな。

「寝かせてあげよう。」

僕は、彼の机に向かうと真っさらな紙を見つけ、筆を走らせた。
当分、このことでからかえそうだ、
と彼が知ったら大激怒されそうなことを思い、僕は彼の部屋を後にした。



「ん…。」

人の気配を感じて目を覚ました。
周りを見渡して見るが、傍らで眠る千鶴と俺以外誰もいない。
気のせいか、と思ったが、机に違和感を感じた。

「気にしすぎか。」

千鶴はまだ眠っている。
つかの間の休息、ではないが、もう少し寝ていても大丈夫だろうと、
千鶴を抱き寄せ、俺は再び眠りについた。



数時間後、僕はもう一度土方君の部屋を訪れた。

「おや?」

先ほどした貼紙がまだドアに貼ってあることに気付いて、
まだ二人は起きてないのだろうかと思った。
貼紙を剥がし、ドアを軽くノックすると、

「なんだ?」

短くも冷たい返事が返ってきた。
どうやら起きてるようだ。

「土方君、入るよ。」

そう言って中に入ると、机に向かっている土方君の姿があった。
どうやら、外の貼紙に気付いてないだけだったらしい。

「なんだ大鳥さんか。」

雪村君の姿が見当たらない。

「やぁ土方君。君は相変わらず忙しそうだねえ。」
「そういうあんたは暇そうだな。」
「とんでもない。君を心配してきたんだよ。」
「ふーん?」

僕は、彼の部屋に来る度、からかっては帰っている。
だからか、どうもあまり信用してはくれなかったらしい。

「あれ?雪村君は?」
「千鶴なら茶入れにいってるよ。あんた、千鶴の茶目当てか?」

土方君は呆れたようにため息をついた。

「雪村君がいれるお茶はおいしいからね。」

僕に顔を向けずに仕事をする土方君に、さっきのことを聞いてみることにした。

「土方君。」
「なんだよ。」
「気持ちよさそうだったね。」

筆を置き、僕を振り向くけど、
土方君はまだ、よくわかってないっていった感じだ。

「幸せそうに二人寝ちゃってさ。いやぁいいなぁと思って。」

ここまで言われれば、なんのことかわかったみたいだ。
見るからに土方君の動きが止まる。
みるみるうちに眉間に皺がより不機嫌モード。
どちらかというと、照れ隠しだと思うんだ。

「あんただったのか!」
「何が?」
「人の気配がしたんだよ。」

土方君は僕が部屋を後にした直後に一度目を覚ましたらしい。

「ったくよりによってなんであんたなんかに。」
「まぁいいじゃない。
部下を休ませてあげようと気を利かせた上司の気持ちもわかってよ。」
「は?何を言ってるんだ?」

何を言っているかわからない、と言った土方君に、例の貼紙を見せてやる。
ドアの外に貼っていた貼紙だ。

「そういうことか……。」

土方君がうなだれているようだ。

「一体どういうことだ!」

一際大きな声が響いた。
貼紙には゛入室禁止 勝手な入室は切腹だってよ゛と書いたのだ。

「僕はただ君達を休ませようとしただけだよー。」
「土方さん、大きな声がしたんですが、どうかしたんですか?」

気がつけば雪村君が彼のお茶を片手に戻ってきていた。

「やぁ雪村君。」

僕が雪村君に顔を向けた時、グシャッと音がしたから、
きっと僕が書いた貼紙を丸めて捨てたんだろうな。

「大鳥さん、いらしてたんですね。すぐにお茶、お持ちししますね。」
「こいつに出す必要はねえよ。」
「そういうことだからお構いなく。僕はそろそろ退散するよ。」

土方君と僕の言葉に、わかりましたと頷いた雪村君は、
お茶を土方君のところまで持っていくと、机の上に置いた。

「土方さん、どうぞ。」
「悪いな。」

その間、空気が和む。
ニコニコと見守っていたら、刺さるような視線を土方君が僕に向けてきた。
これ以上からかうのは僕の命が危ないかな。

「退散するんじゃなかったのか?」
「するよ。」

笑顔で答えると、土方君にこっそり耳打ちした。

「君も雪村君もとても幸せそうな寝顔だったよ。雪村君の寝顔って可愛いね。」

雷が落ちる前に、僕は逃げるように部屋を出ていったから、

「おい!大鳥さん!!」

彼の怒鳴り声を背中で聞いていた。



「ったくあの人は…。」

千鶴が入れてくれたお茶を一口飲んで、一先ず落ち着いた。

「どうしたんですか?」

何も知らない千鶴が不思議そうに聞いてくるが、
さすがに、大鳥さんに見られたことは伏せておくべきだろうと思った。

「また大鳥さんにからかわれたんだよ。」

吐き捨てるように言うと、千鶴が笑う。

「なんだよ?何がおかしい。」
「いいえ。仲が良いな、と思いまして。」
「誰があんなヤツと。」
「でも楽しそうですよ。」
「大鳥さんがだろ。」
「土方さんもです。」

ニッコリと千鶴は言い切った。
時々総司を思い出したりもするが、確かに嫌だというわけでもないし、
こういうのも悪くないと思ってるから、千鶴にはかなわないといったところか。

「千鶴、次休む時は奥へ行くか鍵かけるぞ。」
「どうしてですか?」
「んなもん、おまえの可愛い寝顔見られない為だろ。」

千鶴の目を見てそう言ってやると、瞬く間に耳まで赤くした。

可愛いヤツだ。

大鳥さんも、千鶴がいる前で言い出さなかったあたり、
言い逃げするようになったあたり、だいぶ学んだようだな。