雪深い北の大地・蝦夷。
厳しい寒さとなる蝦夷の冬。

「しかし今日はいやになるほどよく降りやがる。」

そう言った歳三さんの声は、どこ面倒臭そうに聞こえた。

「本当ですね。」

仕方ない。
外は、全てを覆い尽くさんとばかりに、雪が降り続いている。
朝早くから降り出した雪は、益々勢いを増したようだ。

「熱いお茶、お入れしました。」
「あぁ悪いな。」


熱いお茶を飲みながら、二人寄り添うように小さな火鉢で暖を取る。
それが、日常に埋もれてしまいそうな些細なことでも、私にはとても大切なもののように思えた。

蝦夷に来て二度目の冬。
今日は、特別寒く冷えこんでいた。

「今日は特に冷えるな。」

湯呑みを置きながら、歳三さんが呟く。
見れば空になっている。
あまり体を冷やして風邪でもひいてもらっては困る。
数多の戦いを切り抜け、ましてや羅刹だった歳三さんの体は、いつどうなってもおかしくはなかった。

「お代わり、お持ちしますね。」

湯呑みを手に立ち上がろうとした時

「千鶴。茶はいいからここにいろ。」

そう言われてしまった。
いつの間にか、手首を掴まれている。
手を握られては、勝手場に行くことは出来ない。
そのまま歳三さんの隣に座るとあっという間に抱き寄せられた。

「ぁっ…。」

そのまま歳三さんの膝の上に、そして力強い腕に包まれる。
初めてなわけじゃないのに、どうしてか緊張して、鼓動が早くなる。
歳三さんの顔が息がかかる程に、近い。
しっかりと抱きしめられているから、鼓動の音を聞かれていそうで、恥ずかしくもなった。
顔が熱くなる。赤くなっているかもしれない。

「この方が暖かいだろ。」
「……はい。」

じんわりと伝わる温かな体温。
歳三さんの腕の中は、とても暖かった。

「なんだか千鶴を独り占めしてるみてえだな。」

嬉しそうに笑ったその顔がとても綺麗で、見惚れてしまいそうだった。

ひっそりと二人で暮らす今は、似たようなもの。
それに、おまえは俺のもの――…そう言われた時から、私は歳三さん一人のものだから。

「私は歳三さんのものなんですから、いつも独り占めしているようなものじゃないですか。」
「それもそうだけどよ、こうやって俺の腕の中にいるおまえ見ると、千鶴は俺だけのものだって改めて思うんだよ。」

胸が高鳴るようだった。

「それに、こうやって抱いてると…」

優しくて温かな愛情を湛えた歳三さんの目は、さっきからしっかりと私を捕らえている。

「幸せなんだとしみじみ実感して、何より安心すんだよ。」

私は愛されているんだと…自分が愛する人に、こんな風に愛されるって、とても幸せなことだと胸がいっばいになる。

「落ち着くっつーか。ずっと抱きしめていてえと、こうしてるとそれくらいに幸せで、手離せなくるんだよ。」

穏やかで愛情の溢れた歳三さんの顔を見ていたら、もっと胸がいっぱいで苦しくて、今にも泣きそうになってしまう。
何かを話せば泣いてしまうかもしれない。
だから、一生懸命涙を堪えようとした。

「私もです。」
「ん?」

体の力を抜いて、心ごと歳三さんに委ねるように、歳三さんの体全てに身を預けて寄り添う。
歳三さんが私を抱く腕を強める。

「私も幸せです…。」

やっぱり涙は堪えられなかった。
頬を伝ったのがわかった。
でも、歳三さんに伝えたかった。
沢山の愛情を注いでくれる、この大切な人に。

「今も、幸せで…泣いてしまいました。」

温かいものが頬を触れた。
歳三さんがその手を触れ、涙を拭ってくれた。

「凄く落ち着きます。心がやすらぐんです。だから、ずっとこうしてて下さい。」
「そう言われて離せるもんか。離さねえよ、絶対にな。」

力強く宣言された言葉にまた涙が零れて、歳三さんが拭ってくれる。

「泣いてばかりですね、私。」
「いいんだよ、それで。よく泣くのもおまえの可愛いところだ。」

耳元で囁かれ、一気に顔が熱くなる。
絶対今、耳まで真っ赤になってる。


と、ヒュゥっと大きく空気が鳴り、戸がカタカタと鳴る。
どうやら強い風が一陣吹いたみたいだ。

「寒くないか?」

気遣わしげに問いかけてくる。
私の体はすっぽり歳三さんに包まれてるから寒さなんて感じないけど、寒いとしたら歳三さんの方だと思う。

「私は大丈夫です。歳三さんこそ寒くないですか?」
「おまえがいるからあったけえよ。」

そっと歳三さんの手が私の頬を撫でる。
感じる温もりが心地よくて、愛しい。
その手が私の後頭部に回ると同時に、短い距離はあっという間になくなって、温かい口付けを交わす。

「千鶴。」

唇が離れる時、一際優しく甘く囁かれて、痺れてしまうかと思った。

「ここはおまえの定位置だ。いつでも甘えていいんだぜ?ま、今日みたいに冷える日は、こうして俺が抱きしめてやるから、寒さなんて心配するな。あったかくしてやるよ。」

目が合ったら、歳三さんはバチが悪そうに目を逸らしてしまった。
その横顔を見ると、微かに朱が挿してるように見えて、今度は歳三さんが可愛く見えて笑ってしまう。

「ふふ。」
「何だよ?」
「いいえ。今日はとても寒いですから、このままでいてくださいね?」


どんな寒さも、愛しい人と過ごす温もりには勝てないのだ。
蝦夷の厳しい寒さは、去年とは違ってとても過ごしやすくなるかもしれない。
歳三さんに抱かれる腕の中、伝わってくる歳三さんの温もりをかみしめていた。












お題:片恋のお題 09. 消えない温もり
お題サイト「恋がしたくなるお題」様より