「ぶ、ぶーたれたって失礼な…!」
「事実じゃねえか。」
いくら手を繋いで寄り添って歩いても、人目を引く土方さんの容姿に
振り返る女性は沢山いるわけで。色目を使う人だっている。
みんな綺麗で女性らしく、気持ちは落ち込みそうになるけれど、
しっかり繋がれた手と向けられる眼差しに込められた愛情に、
私はこの人に愛されてるんだと無条件に教えられ、私の心を満たしていく。
どこか安心出来たり嬉しさだったり、はたまたちょっとした……優越感みたいなものも。
でも気分がよくないのはきっと、嫉妬だ。
この人は私のものだというのに。私はこんなに独占欲が強かっただろうか。
チラチラと土方さんに向く女性達の視線がとにかく面白くないのだ。
独占欲という醜い感情をあまり知られたくなかった。
土方さんを見る女性達に――それだけのことで――嫉妬しただなんて恥ずかしくてやっぱり言いたくない。
「俺と歩くのはつまらないか?」
「土方さんと一緒に出掛けられるのは嬉しいですし、楽しいです。」
そう、二人で出掛けるのは嬉しくて、一緒にあれこれ見れるのは楽しくて幸せで。
だから自然と笑顔がこぼれる。
「じゃあ疲れたか?」
「疲れてません。」
なんだか女性達の視線に二人の時間を邪魔されてる気分にもなった。
「じゃあどうした?」
気遣ってくれてる口調なのに、土方さんの言葉の端々に少し不機嫌さを感じ取った。
さすがにこのまま黙ってはいられない気がしたし、土方さん相手に誤魔化せる気もしなかったけれど。
「………視線が、」
「ん?」
「過ぎる女の方が皆さん土方さんを見ていかれるので…。」
土方さんの形のいい眉が動く。
ああ怒らせただろうか。
「また自分と比べてたのか?」
「それもありますけど…。」
「けどなんだ?」
そう先を促す。
私は覚悟を決めた。
「なんだか、二人の時間を邪魔されてるようで…嫉妬してしまって……土方さんは私のものなのにと………。」
こんなに独占欲があるとは思わなくてと、千鶴は消え入りそうな声で続けた。
どこか浮かない顔をした理由を聞き出してみれば、それはあまりにも可愛すぎる、あまりにも嬉しい告白。
一瞬呆気に取られたが、顔がにやけるのを止められない。
その耳まで赤く、ただでさえ人目を引く女に成長したというのに、
これ以上他の野郎共に見せてたまるかってんだ。
「千鶴、こっちに来い。」
俯いたままの千鶴の手を引き、殆ど人の目に触れない路地へと連れ込んだ。
千鶴がそう思ってたように、俺だって千鶴に視線を向ける野郎共が気に食わなくて仕方がなかった。
邪魔で邪魔で、俺以外の男の視線ですら嫉妬の対象になる俺は、
独占欲の強さは人の倍以上あるんじゃねえかと思うくらいだ。
俺への視線には気付いても、自分への視線には気付かねえから、内心気が気じゃねえし。
まぁ牽制や威嚇を兼ねて、千鶴を見てた奴ら二戸一睨みしてやったがな。
だが、まさか千鶴が俺と同じようにそこまで想ってくれてるとは。
「俺を見ろ。」
赤い頬に手を添えてやれば、恥ずかしさからか潤みがちな瞳と共に俺を見た。
「醜いですよね、私。」
少し悲しげに揺れたのはそのせいか。
「どこがだ?俺は嬉しかったが、おまえの気持ち。」
繋いでいたもう片方の手を空いてる頬に当て、両頬で包むようにしてから
こつんと額を合わせて、千鶴の瞳を真っ直ぐに見詰める。
「俺だって同じだ。いやそれ以上だな。おまえを見る野郎共の視線が鬱陶しくてかなわねえし、
ついおまえは俺の女だってここにいるやつら全員に宣言してやりてえくらいだ。」
千鶴の瞳が開かれ、更にその色を濃く染め上げていく。
そこに、さっき見た悲しげに揺れるものはなく、嬉しさと感じ取れる熱をもつ色だ。
どっちが溺れたか。両方溺れたか。
それでも、羞恥の色の方が勝って見えるのは、千鶴らしいとも言える。
「出来るなら俺は、おまえを籠の中の鳥のように他のやつらには見せたくねえし、
本当の意味で俺だけの中に閉じ込めておきてえ。俺は、おまえ以上に独占欲が強えんだよ。
独占欲が強いのは俺だけかと思っていたが、おまえも俺を独占しようと思ってくれてるとは嬉しいじゃねえか。
俺だけかと思ってたんだが、違ったみてえだな。それだけ俺を思ってくれてるってことだろ?
醜くもなんともねえよ。おまえがそうなら俺はどうなる。」
俺に捕われたように、目を離さず見上げる千鶴がたまらなく愛しい。
路地に連れ込んでよかったとほとほと思う。
自惚れじゃねえ筈だ、嬉しさと喜びと幸せがそこにあった。
それがたまらず隠れている女としての魅力を見た。
「ったく他所でそんな顔するんじゃねえよ。」
途端にきょとんとおどける様は、どちらかといえば幼いがそれすら今千鶴を引き立たせて仕方がない。
そうは言っても今いる場所は人通りから外れた人気のない路地で、俺以外の誰かに見られる心配がねえ。
他の奴らから隠す為にと取った行動だったが、
今はそれが幸いと惚けたように女の顔で赤らめたままの千鶴に貪る様に口付けた。
「んっ…!」
甘く抜けた声に性急になってしまう。
「ここ外…!」
「ちょうどいいだろ、見せ付けてやればいい。俺はおまえのもので、おまえは俺のものだとな。」
腰に手を回し引き寄せれば、遠慮がちに背中に千鶴の手が回った。
「とっとと用を済ませて帰るぞ。」
「はい。」
言葉に込められた意味を悟ったのか、笑う顔が綻んでいる。
俺達は互いが籠の中の鳥なのだろうか、
ひっそりと人里離れたところに住まう俺達はもう籠の中に捕われているのかも知れねえな。
まだ赤いままの千鶴を連れるには狭い俺の心は許さず
「だが、千鶴の顔から赤い色から引いたらな。今のままじゃとても他の奴らには見せらんねえ。」
そう笑えばすかさず千鶴から反撃をされる。
「そっくりそのままお返しします。」
今の土方さんを他の人に見せたくありません、そういう千鶴は少し照れたようにむくれている。
そこに映った自分の表情に我ながら苦笑してしまった。