自然と桜の季節にここに来るようになっていた。
今日も満開の桜。時折舞う桜の花吹雪。
「今日も綺麗ですね。」
自然と顔が綻んでしまう。
「本当おまえ桜が好きなんだな。」
「はい、歳三さんに似ていますから。」
去年もこの場所で交わした会話を繰り返す。
それすらも愛しい。
「桜はおまえによく似合う。」
去年知ったその言葉の意味。
頬が熱くなりそうな感覚があった。
「桜の中にいるおまえが何よりも綺麗だな。」
思わぬ褒め言葉に、恥ずかしさと照れくささに俯いてしまう。
歳三さんの手が私の顎に触れ、歳三さんの方へと顔を向けられてしまう。
さっきより顔が熱くなっている気がする。
耳まで真っ赤になっているかもしれない。
それでも、しっかり歳三さんの手で固定されてしまっているのもあるけど、優しい春の日のような歳三さんの目を見たら、その目から離せなくなってしまって。
迷いなき彼の目は、ずっと私を捉えて離さない。
「あまり見つめられては困ります…。」
我慢が出来なくなって視線を外そうとするけど、
「千鶴。俺にとっての桜はおまえなのかもな。」
そんな風に微笑まれたら、心臓が高鳴り、どうしていいかわからなくなってしまう。
もう2年が過ぎようとしていた。
どうして、毎日一緒にいて、毎日沢山の言葉を貰っているのに、歳三さんの言葉や向けてくれる愛情に、慣れることが出来ないんだろう。
あまりにも嬉しくて、幸せで、ほらまた、泣いてしまう。
顎に触れていた手は、いつしか頬に触れ、そっと涙を拭ってくれる。
「相変わらず、私は泣いてばかりですね。」
「泣きたいだけ泣けばいいさ。俺が傍にいる間はいくらでも拭ってやるよ。」
二人を包む春の陽光と、どこを見ても広がる満開の桜、風が吹く度舞う桜の花弁。
そして、すぐ傍で触れる愛しくて愛しくてたまらない彼の温もり。
その全てに包まれると胸が苦しくもなり、幸せだと満たされる度涙が零れ落ちる。
「幸せだなって思うと、あまりにももったいなくて、愛しくて、涙が止まらなくなってしまうんです。」
このささやかな幸せに染まる日々が、長く続けばいいと思ってしまうから。
「なら、幸せが逃げないようにしっかり拭ってやらないとな。」
歳三さんは、冗談混じりに言う。
「ふふ、お願いします。」
私はそのまま歳三さんの腕の中。
自然と触れ合える距離にいるのが、私達にとってはとても居心地がいい。
ざぁっと一際強い風が吹いて、花弁を巻き上げていく。
青空に待った薄紅の花弁を、一緒に見上げていた。
言葉はないまま。どこか切なさを宿すその景色。
もしかすると思うところは同じなのかもしれない。
「千鶴。」
「はい。」
「おまえが俺の傍にいてくれてよかったと思う。」
「私もです。」
いつしか、お互いの視線は絡まる。
「いつまでも俺の傍にいろよ?」
少し命令口調に、でも、声音はずっと優しくて
「私はあなたの元を離れませんから。」
だから、少し声が震えた。
頬に涙とは違う温かいものが触れる。
きっと彼の手が涙を拭おうとしている。
「春、ここに来ると改めて思う。おまえがどれだけ愛しいかを、な。」
「っ?!」
笑い声が振ってくる。
真っ直ぐに向けられた歳三さんの言葉に、声も出なくなってしまう。
「どうした?千鶴。」
意地悪のように聞いてくるから。
咄嗟に否定しようと思ったけれど、どれもお見通しなんだろうな。
どうしたらうまく伝えられるだろう。
今心に浮かぶ全ての歳三さんへの想い。
「あ、あの…。」
拙い言葉でしか伝えられないけど、伝えたいと思った。
「私も、ここに来る度思います。こうして歳三さんの傍にいられる時間がとても大切で…その…愛しいかを。そして、そんな気持ちをくれる歳三さんが、何より愛しいと…。」
僅かに目を見張るかのように見えた歳三さんの顔はすぐに、照れたように目元が赤くなる。
「歳三さん?」
返ってきたのは言葉ではなく、温かな接吻。
お互いの想いが、言葉ではなく、直接心と心で伝わりあうような。
ざぁっとまた強く吹き、舞う桜の花弁が私達を覆い隠す。
「来年も来ような。」
「はい。」
まだ息のかかる距離。
「春の月はとんだ媚薬だな。」
言い終えるか否か、もう一度、今度はさっきよりも深く情熱的な口付けを交わした。
お題:陽だまりの恋のお題 04. 幸せの音
お題サイト「恋したくなるお題」様よりお借りしました。