初めて抱かれた男の人が土方さんだった。
一緒に暮らし始めて、夫婦の契りを立てて、少しずつ少しずつ
色んな土方さんを知り、その度に好きになっていく。惹かれていく。
あまりにも優しく、あまりにも柔らかな、そして穏やかな土方さんとの暮らし。
土方さんは、とても優しく甘くなった。
今までの分を取り戻すように、なのかわからないけど
その表情一つ、声音一つ、言葉一つが私の心を惑わせていく。
私はどこまでこの人を好きになるのだろう。
「怖い?」
愛撫の手を止めた土方さんが、そっと聞く。
「はい。何度でも貴方に惹かれるんです。」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。」
顔にかかる髪を土方さんが払う。
「あまりにも好きになりすぎて怖いんです。」
「だったら俺もだ。」
優しいキスが一つ。
「本当ですか?」
「当たり前だ。千鶴と暮らすように
なってから、お前に惚れ直してばかりだからな。」
「だったら嬉しいです。」
肌を滑る手が擽ったくて身をよじる側から、土方さんに捕まえられる。
「幸せすぎて怖えってのもあるけどな。」
自嘲気味に言う土方さんに、胸のうちを見透かされたよう。
「私もそう思ってました。」
縋るように土方さんの首に腕を回し、愛撫に堪えるようくしゃりと髪を掴む。
降る口付けの雨に、艶やかに滑る愛撫に翻弄される。
「幸せすぎて…だから、貴方に惹かれることを、怖く思ったのかもしれません。」
「怖がることはねえよ。今現にお前は俺に抱かれてるんだ。」
重なった口付けは深くなって、逃げる私のそれを土方さんが捕まえる。
「…んぅ…ふ…。」
「千鶴。」
銀糸の糸を吸い取って、土方さんはあ柔らかい調子で私の名を呼ぶ。
熱を持った視線がぶつかる。
「先のことは考えるな。今は目の前の幸せだけを追いかけようぜ。
俺はこうして乱れる千鶴に心ごと奪われちまってるよ。それに、だ。」
「あっ…!」
「まだまだ俺はお前のこと好きになりてえし、好きになってもらいてえよ。」
耳を掠める熱い声。
「好きだぜ、千鶴。前よりも、もっとな。」
「私も…好き、です…。」
息が上がって上手く話せない。
それでも土方さんにはきちんと伝わったみたいで、綺麗な顔に笑顔が浮かぶ。
とても艶やかに。
ああどうしよう。
また私はこの人を好きになる。
どうして、この人に惹かれてばかりなんだろう。
「やっぱり、貴方に惹かれる事、一寸怖いです。」
人を好きになる喜び。
愛し愛される喜び。
好きな人に好きになってもらう喜び。
感じたことのない幸せ。
誰かを好きになるのが怖いなんて、一寸贅沢なことなのかもしれない。
「だってどのくらい貴方を好きになるのかわからないんですもの。」
「だったらどこまでも好きになってくれ。」
そこで一拍間が出来た。
「愛してる。」
耳元での囁きに身震いした。
そのまま耳に口付けられて舐め上げられる。
その後は考える余裕のないほど抱かれた。
ただただ、愛しいという感情だけを分かち合うように。
逞しく力強い腕に縋り、抱かれることに幸せと喜びを噛み締めた。
「群青三メートル前」様より
#散在題 貴方に惹かれる事、一寸だけ怖いと思って居るのです