はらはら舞う桜吹雪が、千鶴を優しく覆う。
柔らかな微笑みで持って、うっとりと桜を見上げている。
俺はそんな千鶴の姿に、見惚れていた。
言葉にならない感情が溢れて、堪らず息を呑む。

綺麗だ…

そんな言葉でしか言い表せない自分が情けねえな。
ずっといい女に成長した、桜に負けていない匂いたつものがある。

「歳三さん、綺麗ですね。」

掛けられた言葉に、はっと我に返る。

「おまえの方が綺麗だよ、千鶴。見惚れちまったっよ。」

思ったことそのまま言えば、頬を赤らめて俯いちまう。
名残るあどけない仕草がまた胸をかき乱す。

「可愛いな。」
「もう…歳三さんの言葉にはいつもドキドキさせられっぱなしです…。」
「お前だけじゃねえよ。」

俺だって千鶴に何度も惚れ直して身がもたねえよ。
千鶴に並ぶ。
一緒に桜の木を見上げる。
寄り添う千鶴がそっと俺の着物の袂を掴んだ。

はらりはらり。
ひらりひらり。
ふわりふわり。

絶え間なく桜の花びらは降ってくる。
まるで俺達を祝福してくれてるようだ
なんてらしくもねえこと考えちまうくらいだ。
横目で千鶴を盗み見れば、どこか嬉しそうに桜を見上げている。

「千鶴。」

千鶴の振り向き様、小さな口付けをした。
肩を抱き、間の距離を縮めてもう一度。

「まるで桜が祝福してくれてるみたいですね。」

さっき俺が思ったことを千鶴が言った。
驚いて瞠目した俺を千鶴が見咎めた。

「なんか変なこと言いましたか?」
「いや。」

千鶴と暮らすようになってから、俺は随分と穏やかな感情起伏と
表情をするようになったと――少なくとも千鶴はそう言う――思う。
自然と浮かぶ笑みを千鶴に向けて言う。

「俺も同じこと思ったから驚いただけだ。」

ぱぁと広がる笑顔に側で咲き誇る桜の花を思う。

「歳三さんもだなんて嬉しいです。」
「夫婦なんだ、当たり前だろう。
 それにあいつらもきっと祝ってくれてるのさ。」
「そうですね!」

そうして訪れる無言の時間すら愛しい。
トン…と頭を俺の肩に預けて、千鶴は浅葱の空に映える桜を見上げる。
いつまでもこうしていたいとそう願ってしまう、ゆったりとした時間。
桜は千鶴の肩にも俺の肩にも花びらを残す。


夜、ちょうど上物を脱いだ時、ひらりひらりと残っていた花びらが落ちた。
千鶴からも俺からも。

「歳三さんは、ああ言ってくださいましたけど…。」

花びらを手に取る千鶴が、恥ずかしさからなのか、顔を上げずに言葉を続けた。

「私も、貴方に見惚れていました。桜吹雪の中にいる歳三さんが綺麗で…。」

目を合われず赤らむ千鶴に耐えきれず、手を引いて抱き寄せる。
千鶴が手にした花びらがひらり床に落ちていく。

「ったくお前は本当怖え女だ。」
「どういう意味ですか。」
「俺が何度お前に惚れ直して、何度見惚れて、心奪われてるか知ってるか?」
「そんな…私なんか…。」

例によって謙遜といえばいいのか、そんな言葉が聞こえてくる。
抱き締めているその耳に寄せた。

「自信持て。お前は最高の女だよ。」

一つ高鳴った千鶴の鼓動。

「あんまり言わないで下さい…。」

消え入りそうな声が聞こえた。

「私の身がもちません…。」
「俺もだよ。」

耳どころか項まで赤い姿に思う。

「なぁ千鶴、お前の花を俺にくれ。」

俺にとっての何よりの桜は千鶴自信だった。

「それは…あの…。」
「抱かせてくれ。」

率直な言葉に千鶴は一瞬強張ったように見えたが

「…はい…。」

聞こえるか聞こえないかで聞こえた諾の返事。
聞くや否や唇を重ね、額、瞼、頬、首筋、項…口付けを降らしていく。
千鶴を組み敷いたその時、どちらについていた花びらか、はらりと舞った。