自然と自室へ戻る足が早くなる。
俺には構わず早く休めと言ってはあるが、千鶴のことだ。
俺の部屋で待っているに違いない。
全く…ことあるごとに、早く休めと言っているんだが、
「そのままほっといたら土方さんいつまでも仕事するじゃないですか。」
そうやり込められたこともある。
大概は、「土方さんより先に休めません」という言葉が返ってくる。
頑として譲らないのは江戸の女の気質か。
呆れるやら微笑ましいやら。
そんなところすら愛しいと思う俺も重症か。
だからこうして会議が長引いた日には
千鶴は部屋で待っていることが殆どなのだ。
ほら、今日も。
「だから休めって言ったのに。」
部屋に戻れば長椅子に座ったまま
背もたれによりかかったまま眠る千鶴の姿。
思わず嘆息して千鶴を眺める。
手にしていた書類を机にやり、俺は起こさないよう千鶴の隣に座った。
俺に付き合っていることもあってか、疲労の色が垣間見える。
その頬に指を滑らす。
滑らかに滑ったその肌理やかな肌。
白く綺麗な肌に、俺はいつも傷をつけているのか。
あらわになっている項にそんなことも思った。
そっと抱き締めようとした時、千鶴の睫が震えた。
「ひじ、…かたさん…?」
まだ起ききれてない千鶴の舌足らず声に呼ばれた。
それだけでこのまま押し倒したくなる。
「いいぞ、寝てても。」
そこはぐっと抑えて千鶴の頬に手をやる。
と、完全に覚醒したらしく、さっと顔が赤くなった。
顔を逸らしたかったのだろうけど、俺の手があって出来なかったようだ。
「だから言っただろう、休んでていいって。」
「先に休むわけにはいきませんし…。」
「構わねえって言っただろう。」
「すいません。」
「気にするなって。
俺としては可愛いお前の寝顔見れたからよかったけどな?」
はじかれたように顔を上げた千鶴の耳が赤い。
その隙に千鶴を抱き締める。
「あの…。」
「いつも悪いな。」
「いえ、私が好きでやってることですから。」
「無理しなくていいぞ?」
「無理なんて…!ただ、土方さんと少しでも一緒にいたいだけですから」
可愛いこと言いやがる。
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。だったら千鶴。」
腕を緩めて千鶴の顔を覗き込む。
大きい瞳に吸い込まれそうだ。
「一緒に寝るか。」
一つ瞬き。
「ええっ?!」
「そんなに驚くことか?」
「だって…!」
「おまえだろうが、少しでも一緒にいたいっつったのは。」
「ですけど!」
「俺だって一緒にいてえんだ。それに、もうお前を離す気はねえんだよ。」
一度腕に抱きいれた愛しい女を誰が手放せるか。
まして、少しでも一緒にいたいといわれた後で。
少し黙った千鶴が、照れて恥ずかしがっているだけなのもわかっている。
「…はい。」
やがてか細い声が諾と伝えた。
たまにはこういうのも悪くねえなと思っちまう。
出来れば千鶴には休める時に休んでほしいが
今日ばかりは休まず待っててくれてよかったな。
結局は千鶴に敵わない気もするがな。
「よし、寝るか。」
すっかり顔を俯かせた千鶴を抱き上げた。
「土方さん!」
「なんだ?」
「あ、歩けますから!」
「あんまり暴れると落ちるぞ。」
最初は暴れていた千鶴も、さすがにその一言に落ち着いた。
ぎゅっと縋る可愛い姿に何もせずにいられるか、ふと不安にもなったが。
何はどうあれ、今日はゆっくりいい夢が見れそうだ。