「おい、千鶴!いつまでやってんだ。」
「すいません、気持ちよくて。」
洗濯物を干す千鶴と、それを楽しげに見るのは土方。
早い秋の訪れの中、小春日和と呼べるホッとするような天気だ。
千鶴の笑顔が嬉しそうに輝く。
釣られて笑顔になった土方は、すぐ後には相好を崩し眉間にシワがよった。
縁側から降りて千鶴の側へと歩いて行く。
はためくのは、綺麗に洗いたてられた二人の洗濯物。
「だからってな旦那さんをいつまでほっておく気だ?」
旦那さん、の言葉にサッと頬を染める初々しさ。
形だけとはいえ祝言をあげてまだ日が浅く、
千鶴はなかなか慣れないもので、まだ呼び方も「土方さん」だ。
床に敷く布団もいつしか一枚になり、文字通り共に寝起きをする。
土方が千鶴の頬に手を寄せる。
「ちーづる。」
甘さを含めて呼べば、視線はぎこちなくあちらを向いてしまう。
そんなところがまた可愛いと土方は思うのだが。
「土方さ…。」
千鶴が何かを言いたげなところで、封じるかのように口付けた。
長い口付け。
息苦しさに千鶴が土方の胸板を叩き抗議をするとやっと唇が離れた。
「突然なにするんですか!」
その耳まで赤く。
「可愛いなって思ってよ。」
「かっ…!そんなこと理由になりません!」
「お前はもっと自信持っていいぞ。本当お前はいい女だからな。」
柔らかな笑顔でさらりと自信満々に言われては、
千鶴は何と言い返していいものかわからなくなってしまう。
でも、嬉しかったのだ。
土方にいい女と言われたことが。
ずっと土方に見合う女性になりたかったから。
「土方さんはずるいです…。」
土方に聞こえるか聞こえないかの声で呟くと、さっと身を翻して土方から離れる。
「も、もう少しで終わりますから待っててくださいっ。」
「わかったよ。」
ここは土方が降参。
千鶴から土方の温もりが離れる。
小春日和とはいえ冷える北の大地。
その温もりを求めていたのは、土方だけではない。
千鶴もまた求めていた。
大好きな人の隣へ。
千鶴は残り少ない洗濯物を手早く干していった。
共に暮らし出してまだ短く。
けれど、互いが抱く想いだけは十二分に。
土方を失うことに心の何処かで怯えながらの日々。
でも。
だけど。
一緒に生きたいと思う人がいる――。
それはきっと凄く幸せなのだと、そう思う二人の日々。