花火が上がる。
夜空を彩る夏の花が――。



まだ新選組として京都にいた頃。
近藤さんの命もあって、忙しく仕事に追われる歳三さんと
夏祭りの花火を見に出かけた事があった。

上がる花火に、刻まれた眉間の皺もなくなって。
まだ副長とその小姓という間柄。
密かな想いを抱き始めていた矢先。
そんな細やかな時間がとても愛しくて。

歳三さんと見れた事が嬉しかった。
そして、少しでも仕事を忘れ、少しでも本心を見せてくれた事が何よりも。

覚えてますか?歳三さん。
今となってはとても懐かしい、そんな思い出を――。



時は過ぎ、夫婦として初めて見た、函館の花火。

手を繋いで寄り添って見上げる。
花火越しの歳三さんの顔が綺麗で、一瞬見惚れたのは内緒の話。

「綺麗だな。」

花火を見上げる横顔は、激動の時代からは、
ちょっと想像出来なかった、穏やかな顔。

「はい。歳三さんと見られて嬉しいです。」
「俺もだよ、千鶴。」

その時思った。
来年もそのまた来年もずっと見られたらいいのに――。
ううん、ずっと一緒にいられる気がしてた。

幸せだった、二人で過ごした日々。
毎年二人、花火を見に出かけた。
無言のまま見えない言葉でお互い分かりあって、夏の花を見上げてた。

一際大きな花火に驚き、歳三さんに縋った事もあった。
それもまた懐かしい思い出。
その時の力強い温もりを覚えてる。



そして――。



今年の花火大会。
歳三さんがいなくなってから初めての花火大会。
いない貴方を傍に感じる。

ヒューッ

ドン!

ぱぁと明るくなる一瞬。

歳三さん、貴方にも見えていますか?
貴方のいない花火大会は、やっぱり寂しいです。

幾ら貴方を傍に感じていても、貴方がいるわけじゃない。
寄り添う温もりも、花火の楽しみを分かち合う喜びもないのだから。
「綺麗ですね」って言い合う相手がいないのはこんなにも切ない。

蘇る、これまで歳三さんと見た花火の数々。
最初に京都で見た時には、まさかこうなるとは思わなかったから。

「歳三さん、今年の花火も綺麗ですよ。」

一筋の涙が頬を伝う。
願わくば、今年も来年もずっとずっと一緒に花火を見たかった。
貴方の隣で――。



花火が上がる。
夜空を彩る夏の花が――。
貴方のいない夏がもうすぐ終わりを告げる。