前編を読んでからどうぞ

「本日は薄桜学園と島原女子の合同文化祭へようこそ!
 これからここ薄桜学園体育館ステージでは、この合同文化祭メインイベントの一つ、
 ベストカップル賞のコンテストの発表に入りたいと思います!」
「今回、このベストカップルコンテストに応募してくれたのは――。」

薄桜学園の体育館では、両校の生徒が超満員で集まっていた。
ステージ上では、薄桜学園の生徒と島原女子の生徒がマイクを握り、
ベストカップルの発表を進めていた。
3位、2位と進んでいき、1位の発表の時がやってきた。

「それでは待ちに待った1位の発表です!」

会場が一番の盛り上がりを見せた。

「1位は、薄桜学園と島原女子共に圧倒的な票数を集めました、
 両校が認めるベストカップルの名に相応しい二人です!」
「薄桜学園生徒会長・風間千景さんと、島原女子のマドンナ・鈴鹿千さんのお二人です!!」

司会の生徒二人の合図で、薄桜学園の生徒でありながら制服は違う白い学ランの風間が
千姫の手を引っ張りながら、ステージ中央へと悠然と歩み出た。

「ちょっと待ちなさいよ!なんで私があんたなんかとベストカップルにならなきゃならないのよ!」

千姫の声が響く。
風間の手を振り払って、両手を腰に風間を毅然とした態度で見遣る。

「俺はただ当然のことをしたまでだが?」
「このどこがよ!自分で動くならまだしも、人を使ってでしょ?!
 あんた他力本願じゃないと何も出来ないわけ?!」

千姫が指差した先は舞台袖にいる、不知火と天霧。
今回、不知火が千姫と風間に内緒で本人了承済みとしてベストカップルに応募していたのだ。
事の始まりはそこである。
生徒会室で毎年繰り返されるような会話をした後、不知火の口元に浮かんだ笑みの意味はこれだ。
天霧に事の次第を話し、票の獲得の為両校の生徒にそれとなく動き、
島原女子の生徒を上手く言いくるめて千姫を連れ出してもらい、そして今に至るという。
風間にはベストカップルの発表の前に全てを話した。
勿論、風間は言うまでもなく乗り気であり、ご機嫌だったとか。
千姫は舞台に上がるまで何も知らせれていなかった。

「心外だな。あいつはただ俺に協力したまでだ。満更でもないのだろう?」
「あんたの目は節穴なのかしら。大体何年浪人してんのよ。」
「浪人だと?俺は我が妻となる女を出逢う為にすることをしているだけだ。
 こうして我が嫁と逢えたのだ。高貴な姫の末裔とは俺に相応しい。」
「あなた私のこと知ってるんなら態度をわきまえなさい!」

鋭い千姫の声に風間は息を呑むようにするが、すぐにほう、と口角をあげた。

「面白い。」

ステージ上で繰り広げられるのは、風間と千姫の言い合い。
生徒達はその掛け合いするら楽しそうである。
が、千姫だけはあまりそうではないらしいが。

「見てください!この見事なまでの二人の掛け合い!さすがはベストカップルです!」

司会の一人が生徒達を煽るような一声をかけると、更に生徒達が盛り上がる。
さすがに収集がつかなくなったこの状態。
千姫は盛大なため息をついた。

「仕方がないから今日だけは付き合ってあげる。今日だけはね。」

風間の鼻先にビシッと指をさして、最後の一言を殊更強調して風間に言う。

「だけど、もう金輪際こういうのはごめんですから。」
「これからもお二人が末永く幸せであることを願って、
 薄桜学園と島原女子合同によるベストカップルコンテストを終わりにしたいと思います!」

割れんばかりの拍手に包まれた。
終わりをそれで知った千姫が、風間に一瞥もくれずステージ袖へと歩き出した。

「そう照れずともよいものを。」

風間は懲りてないのか何も見えてないのか聞いてないのか、
とても場にそぐわない発言をしながら同じようにステージを降り、千姫を大いに呆れさせていた。

「一体何をどう見たらそう見えるのよ。」
「薄桜学園・風間千景さんと島原女子・鈴鹿千さんでしたー!」

どこまでも明るい司会の声に重ねて、千姫が風間をもう一度真正面から見据えて言った。

「きちんと卒業できるっていうんなら、あんたとのこと考えてやってもいいわ。」
「いいだろう。」
「かといってそう簡単に卒業されてもこっちが困る。
 私はかの有名な姫様の末裔よ、それに相応しいところを見せなさい。」

凛とした千姫の声が響く。

「せめて、今回のことを画策した不知火とやらと、協力した天霧とやらには頼らずに、
 あなた自身が動くことね。人に頼ってばかりの今まであなたはとても私に釣り合わないわ。
 そのことをよく自覚するのね。その上で卒業出来たらその時は考えてあげる。」

口の端をニヤリと上げて風間は笑った。

「いいだろう。」

風間の答えを聞いた千姫は、身を翻し颯爽とその場を去っていった。

「これで一歩前進か?まぁ険しい道のりだろうけどな。」

影で話を聞いていたらしい不知火が姿を現した。
投票場所で土方と君菊にこってりと小言を言われたであろう不知火は、
やけに疲れたようにも見えるが。

「不知火か。最初は何を企んでるかと思えば、たまにはちゃんとやってくるではないか。」
「まあな。でも、こっからはあんた次第だからせいぜい頑張るんだな。」
「手に入れてやろう。」

薄桜学園と島原女子の合同文化祭は、その後も両校のミスター・ミスを決める
コンテストが行わるなど賑わいそのままに、大成功のうちに幕を下ろした。
いつもは顔を顰めてうるさそうに生徒会室にこもっている生徒会長が、
この年初めて直接参加したとても希少価値のある文化祭にもなった。
千姫は、心配して袖で待っていた君菊、千鶴、土方と合流し、
賑わいを見せ、ベストカップルの余韻残る文化祭を堪能していた。
来年も合同文化祭になりそうだと思ったのは誰だったか。

後夜祭と呼ばれるキャンプファイヤーを、千姫は
仲睦まじい土方と千鶴の二人と別れ、近くで君菊と眺めていた。
風間は生徒会室から不知火・天霧と眺めていた。
一つのカップルの始まりを作った合同文化祭。
その行く末はどうなるのであろうか、誰にも知る由がない。