部活に入っていない生徒達が、帰り道を急いでいる。
一日の終了、HRが終わり、解き放ちの合図であるチャイムが鳴り
――いや、この男には元々関係ない。
生徒でありながら生徒でないようなもの。
はたまた歳も、この学園の教頭兼古文教師の土方と
同級生というのなら、一体何年留年しているのかわからない。
そんなことはどうでもいい。
何故、万年留年と土方に呼ばれる程留年し、
生徒会長をしているのか、その理由の方がこの男には大事である。
「で?あれからどうなんだ?」
「なんのことだ。」
「高貴な姫の末裔、千姫とのことを言っているのです、不知火は。」
「野暮なことを聞く。」
不毛というよりややうんざりとした会話を交わす男達がいる。
どうやら、風間と同じ生徒会の人間らしい。
「俺がせっかくお膳立てしてやったんだぜ?」
「あれは結果がよかっただけでしょう。」
「終わりよければ全てよしってヤツだよ。なぁ風間。」
風間に話を振った長髪の男が不知火という。
合間に言葉を挟んだ赤髪の短髪の男が天霧という。
無表情に近い天霧からは表情が読めないが、不知火は楽しそうに笑っている。
不知火から話を振られた風間はというと、
しきりに生徒会室の窓から見える校門を気にしているようである。
「我が妻なら当然の結果だろう。」
自信持って言い切った風間に、不知火も天霧もため息をつくばかりである。
「で、貴方は先程から何をそんなに外を気にされているのです?」
「それも毎日じゃねえのか?」
「我が妻だよ。」
「「はい?」」
風間の答に二人の声が重なった。
理解できない、といった風である。
「あの千とかいったけ?姫さんとこれから逢う約束でもしてたのか?」
「しとらん。」
益々訳がわからない二人は互いに顔を見合わせた。
「だが、普通は俺のところへ来るもんだろう。」
鷹揚に言い、言葉を続ける。
「千姫が?」
「ああ。何故待っていない。
普通学校が違うんだ、我が校の校門で俺の帰りを待っているものだろう。」
暫しの沈黙。
「風間…あんたっておめでたい頭してるよな。」
「風間、そういう取り決めを千姫としたのですか?
「してないがそれがどうした。」
肝心の部分を天霧が聞くが、返ってきた答えは否。
「私には理解できませんね…。」
当然の呟きが天霧の口から零れた。
「それじゃ千姫来ないだろ。」
「大体、自分でどうにかしろと言われたのを忘れたのですか。」
遡ること半月近く前。
風間達薄桜学園と、千姫達島原女子の合同学園祭が行われた。
そこでベストカップルに選ばれた風間と千姫だが、
カップルというのにはまだ遠く、しかも人に頼ってばかり
(概ね天霧と不知火に、だが)の自分を自覚し、
自分で卒業することが千姫からの条件とされたのだ。
「覚えている。」
「だったらご自身から動いてはいかがですか?」
「そうだぜ、風間。このままじゃあんた
何も変わんないだろう。それに卒業も出来ねえぞ。」
何しろ風間は、嫁が出来るまで卒業できないのである。
「ではどうしろというのだ?」
「だからそれを自分で考えろって話だろう。」
そうはいわれてもこの男がはいそうですか、と動けるものではない。
しかし、風間とて千姫が本気であの条件を持ち出したことはわかっている。
にこやかにそして余裕のあるその横顔に、初めてそうではない表情が浮かぶ。
むっとしたような、表情が。
「そんなのわかっている。」
「このまま貴方が動かないでいると千姫は離れていきますよ。」
「いいのか?このままほっといて。」
暫し無言の間。
「俺が動けば我が妻も喜ぶのだな?」
「ああ、そうだ。」
そして風間が取った選択は。
「我が妻を探して逢いに行くぞ。」
漸く動き出した風間に、天霧と不知火は顔を見合わせてため息をついた。
後編に続きます